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12/26/2014

約款についての最高裁判決

こんにちは。
ツイッター経由で最高裁が約款についての判決をしたということを知ったので、もし現在提言されている定型約款についての条項が立法化されたら、現在の判断とどのように異なるか、思考実験してみることにしました。

最判平成26年12月19日

地方公共団体Xが、公共工事(本件工事)を一般競争入札の形式で募集し、A社およびY社との共同事業体(本件共同事業体)が落札し、その結果、Xおよび本件共同事業体との間で本件工事にかかる請負契約(本件契約)を締結しました。本件契約の契約書において、注文者であるXは「甲」、請負人である本件共同企業体は「乙」と表記されていました。また、同契約書に添付されていた工事請負契約約款(本件約款)には、次のような条項がありました。

・乙が共同企業体である場合には、その構成員は共同連帯してこの契約を履行しなければならない(本件連帯条項)。 ・乙が本件契約の当事者となる目的でした行為に関し、独禁法違反行為があったとして公正取引委員会から排除措置命令または課徴金納付命令が確定した場合、乙は、甲に対し、賠償金として請負金額の10分の2相当額を支払う(本件賠償金条項)。

公正取引委員会は、AおよびYが本件工事を含む一連の工事において談合を行ったとして排除措置命令および課徴金納付命令を行いました。Aに対する排除措置命令および課徴金納付命令は確定しましたが、Yが審判請求を行ったためYに対する排除措置命令および課徴金納付命令はまだ確定していません。
Xは本件賠償金条項に従い、請負金額の10分の2相当額を「乙」に行いました。これに対し、Aはその一部を支払いましたが、Yは支払わなかったため、Xは未払の賠償金をYに請求した、というのが細かいところを省いた本件の概要です。

これに対し、最高裁は次のように判示しました。

本件賠償金条項における賠償金支払義務は「乙」に対する排除措置命令等の確定を条件とするものであり、ここにいう「乙」とは、本件約款の文理上は請負人を指すところ、「乙」が「AまたはY」を意味するのか「AおよびY」を意味するのかは、文言上、一義的に明らかではない。

Xは、共同企業体の構成員のうちいずれかの者についてのみ排除措置命令等が確定した場合に、不正行為に関与せずに排除措置命令等を受けていない構成員や、排除措置命令等を受けたが不服申立て手続をとって係争中の構成員にまで賠償金の支払義務を負わせようというのであれば、少なくとも、上記「乙」の後に例えば「(共同企業体にあっては、その構成員のいずれかの者をも含む。)」などと記載するなどの工夫が必要であり、このような記載のないままに、「乙」が共同企業体の構成員のいずれかの者をも含むと解し、結果的に、排除措置命令等が確定していない構成員についてまで、請負金額の10分の2相当額もの賠償金の支払義務を確定的に負わせるというのは、上記構成員に不測の不利益を被らせることにもなる。したがって、本件賠償金条項において排除措置命令等が確定したことを要する「乙」とは、本件においては、本件共同企業体または「AおよびY」をいうものとする点で合意が成立していると解するのが相当である。(注)

なお、最高裁は、本件連帯条項の効力について判断しませんでした。

同じ事案が現在提言されている定型約款についての規律が立法化された場合、どのように判断されるでしょうか。

まず、最新の立法提案を見てみましょう。

部会資料83 第28 定型約款

1 定型約款

定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。

定型約款とは、相手方が不特定多数であって給付の内容が均一である取引その他の取引の内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的な取引(以下「定型取引」という。)において、契約の内容を補充することを目的として当該定型取引の当事者の一方により準備された条項の総体をいう。

2 定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等

定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 定型取引の当事者は、定型約款によって契約の内容を補充することを合意した場合のほか、定型約款を準備した者(以下この第28において「定型約款準備者」という。)があらかじめ当該定型約款によって契約の内容が補充される旨を相手方に表示した場合において、定型取引合意(定型取引を行うことの合意をいう。以下同じ。)をしたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

(注)旅客鉄道事業に係る旅客運送の取引その他の一定の取引については、定型約款準備者が当該定型約款によって契約の内容が補充されることをあらかじめ公表していたときも、当事者がその定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなす旨の規律を民法とは別途に設けるものとする。【P】

(2) (1)の条項には、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、含まないものとする。

3 定型約款の内容の開示義務

定型約款の内容の開示義務について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で当該定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

(2) 定型約款準備者が、定型取引合意の前において、(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

4 定型約款の変更

定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 定型約款準備者は、次のいずれかに該当するときは、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意をしたものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。ただし、定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているときに限る。

ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款に変更に関する定めがある場合にはその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

(2) 定型約款準備者は、(1)の規定による定型約款の変更をするときは、その効力の発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びに当該発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

(3) 定型約款準備者は、(1)イの規定による定型約款の変更をするときは、(2)の時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、定型約款の変更は、その効力を生じない。

これを踏まえて、以下のような論点を検討してみることとします。

論点として、次の3つを考えてみましょう。

(1)本件約款は定型約款か。 (2)本件約款が定型約款だとした場合、本件契約は2(1)に基づき契約内容に組み入れられているか。 (3)本件連帯条項および本件賠償金条項は、2(2)に照らして契約内容として補充されるか。


(1)本件約款は定型約款か。
地方公共団体の入札に係る請負約款は、公共工事の公平性から、類似の工事に同一の条件で行われることが要請され、公共団体は契約条件について交渉することはありませんし、また、請負会社の側も、条件変更をすれば落札できないで、そのままの条件で応札することを想定していると思われます。確かに約款に加えて、工事特有の記述や、請負金額を記載した要項を約款に添付し、双方押印していますので、一般に理解されている運送約款などとは異なりますが、「相手方が不特定多数であって給付の内容が均一である取引その他の取引の内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的な取引において、契約の内容を補充することを目的として当該定型取引の当事者の一方により準備された条項の総体」と評価できるものと思われます。

(2)本件約款が定型約款だとした場合、本件契約は2(1)に基づき契約内容に組み入れられているか。
これは契約書に双方調印しているでしょうから、本件約款に基づく取引であることの合意があったと事実認定されると思われます。その結果、契約内容に組み入れられているという判断がなされることになります。

(3)本件連帯条項および本件賠償金条項は、2(2)に照らして契約内容として補充されるか。
最高裁が判示するように、共同事業体の一方がまだ排除措置命令等が確定していない段階において
本件賠償金条項に基づいて賠償金を請求されることは、「不測の不利益を被らせる」ということであれば、「相手方にとって予測し難い条項が置かれている場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ、信義則に反することとなる蓋然性が高い」(部会資料83-2,40頁)として契約内容として補充されない
、ということになるのではないかと思います。
現行法の解釈として最高裁は本件賠償金条項の合理的解釈として、「乙」は「AおよびY」と判示しましたが、仮に部会資料83が立法化されますと、当該条項は最初から契約内容にならないということになるのではないでしょうか。その結果、法律の任意規定や取引慣習が当てはまらなければ、全く白紙ということになるのでは無いかと思われます。

(注)千葉裁判官が本件約款および本件賠償金条項の本件契約における位置付け等について補足意見を述べておられます。

一般に、約款は、国民一般が当然に遵守義務を負う法令とは異なり、契約の一方当事者が多くの相手方に対し同一条件の内容の契約を成立させるためにあらかじめ示した意思表示であり、これを前提とする契約が成立した場合、この約款の文言等が明確でなく、その解釈、適用範囲等が問題になった場合には、当該約款を抽象的な規範として捉えて解釈するのではなく、あくまでも約款を前提に当事者間で成立した契約における条項の解釈として行うべきであり、そこでは、当事者間において当該約款によりどのような内容の意思の合致があったのか、すなわち契約における意思表示の内容は何かをみていく必要がある。その際、第一次的には、当事者が合致した内心の意思は何かが問題となるが、この点については、明確でなくあるいは争いがある場合には、約款を含む契約条項の文言を基に、当事者の合理的意思解釈を行っていくべきであろう。

従来言われたような約款使用者不利の原則ではなく、オーソドックスな契約解釈の手法を約款においても用いようとする意見ではないかと思われますが、裁判官出身の千葉裁判官が、部会第85回で裁判官出身メンバーの執拗な反論にあって立法化を断念した中間試案第29の手法と同様を取っていることはなんとも皮肉です。

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