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12/12/2016

グループガバナンスについて

 HN7023さんありがとうございました。法務系Advent Calendar 2016のバトンを受け取りました。(しかしこのブログはほぼAdvent Calendarのときにしか更新されませんなあ。)

 今年は、グループガバナンスについて、いくつかの研究成果が発表されました。
 しかし、法律的検討以前の問題として、そもそもなぜ企業はグループ経営をするのか、なぜガバナンスが問題となるのか、という基本的問題について整理されたものはあまりなく、一部の病理的現象や裁判例の分析に一足飛びに移ってしまうような気がしています。
 そこで、法務系Advent Calendar 2016の企画として、グループガバナンスについての整理をしてみようと思います。

1.企業はなぜグループを形成するのか。
 まず、企業活動の展開をなぜ別企業を設立して行うのか、という点を考えてみましょう。

(1) そうしなきゃならないから。
 たとえば、ある国である事業を行うにはその国で会社を設立しなければならない、という規制がある国で規制対象事業に進出したいときは、その国で会社を設立しなければなりません。
 また、特定の事業のライセンスを行う会社は、その会社で別事業を兼業できないとか、規制官庁の認可が必要だが困難ということがあります。このような場合にも、別会社を設立することが事実上強制されます。
 このような場合は、別会社を設立するか、さもなければ事業を断念するかの二者択一しかありません。

(2) 責任の遮断
 株式会社の出資者は出資責任以上の責任を負わないので、別会社にすることで、民事上の責任を遮断することができます。また、行政法上の責任も原則としてその法人限りなので、行政責任も遮断することができます。労働法上の雇用者としての民事責任、行政責任も含まれます。
 このように責任を遮断するために別会社を設立するというのが、もっとも基本的な使われ方だと思います。

(3) 使い勝手
 株式会社は、歴史的に事業を進めるためにもっともふさわしい形に進化してきました。企業会計によって、行う事業の状況を把握し、将来の計画を立ててコントロールする仕組み、取締役会や監査の仕組みによって、経営を適正に進める仕組みのパッケージが確立しています。
 異なる事業を行う際に、同じ会社の中で別事業を把握することも可能ですが、経営指標の把握や事業コントロールの仕組みを事業ごとに新たに作らなければならず、複数の事業を営んでいるときに、それぞれの事業ごとに同一の尺度で比較することも容易ではありません。別会社を設立すれば、株式会社というインフラを使うことができます。
 また、事業を新しく買ってきたり、売るような場合にも、会社というモジュールにしておくことで、それぞれの会社ごとに、事業としての一定の機能があらかじめ組み込まれているために、同一の会社の一部であるよりも、容易になります。

(4) 人
 上記と重複する部分もあるのですが、実務上は別会社にする目的として「人」の問題が大きいと思います。
 まず、雇用形態の異なる労働者を法人を分けて雇用することで、人材の効率的な活用が可能となります。ホワイトカラーの事務系の会社が新しく現業を開始するときに、現業の勤務形態が異なるとか社風が異なるとか(これが一番大きいのですが)給与水準が異なる従業員を同一法人の中で抱えるというのは、制度上は可能であるものの、実務上はなかなか問題が多いと思われています。労務管理のやり方が全然違いますし、給与水準が違うことが従業員にどのようなモラールダウンを引き起こすかということにも配慮しなければならないからです。
 さらに、子会社で一定のポストがあることで、親会社のOBとか、親会社に何らかの理由で残れなかった人に役員や幹部のポストを用意することができ、親会社の人事ローテーションをスムーズに回転することができるという裏の目的もあります。もっとも、その結果、子会社の経営にふさわしくない人材が子会社に来てしまい、最悪の場合は子会社を私物化したり、親会社の統治が及びにくくなるという弊害も起こり得ます。

コラム あるある: 1 社内論理では次期社長と自他共に認める人物が、指名委員会の受けがなぜか悪く、別の社内的には「さえない」人物が次期社長になってしまった。次期社長は自分より大物であるその人をうるさがって子会社の社長にしたが、その結果、子会社の社長には何も言えなくなってしまい、子会社がブラックボックスになってしまう。子会社の社長は、親会社のときの乗りで、チャレンジングな新規事業に手を出したが、子会社の力量では失敗、ただ、その情報もなかなか親会社には伝わらず、親会社に発覚したときにはグループ全体に壊滅的打撃が出る状況になってしまっていた。

2 親会社の幹部OBが子会社の幹部として赴任してきた。子会社の経営規模に似つかわしくない個室、ハイヤー、ゴルフ会員権を用意させられた。その割には子会社の仕事には全く熱意がない。ときどき思いついた指示はことごとくピント外れである。

2.企業集団はなぜ一体的に統治されなければならないのか。
 株式会社の本質は所有と経営との分離ですから、子会社であっても、それを徹底させて、株主総会での議決権行使以外は株主総会で選任された取締役に経営の監督を任せ、取締役が執行を監督させる仕組みがあってもよいと思いますが、現在そのような仕組みを取っていれば、親会社としてのガバナンスが足りないと非難されます。実は20年くらい前には、米国事業において、米国子会社の訴訟が法人格否認(piercing corporate veil)されて訴えられる(訴訟社会アメリカでは、よりdeep pocketである親会社の責任を追及するため、しばしばpiercingが主張されます。)リスクを回避するためには、株主総会での議決権行使以外のことはできるだけしない方がいいという主張を、一部の訴訟弁護士が展開していたこともありました。
 しかし、実際には子会社が破滅的な不祥事を起こし親会社の信用ばかりか法的責任まで問われてしまう事案や、子会社に親会社の損失を押しつけて見かけの状態を作ろうような事案が多く見られたため、経理上は子会社の全部連結がなされ、法律上も親会社またはその取締役に、子会社の事業に対しての統制が求められるようになりました。つまり、論理的帰結というよりは、実務上の知恵として、企業集団を一体的に統治するようになったのではないかと思います。
 
3.望ましい企業集団統治のために
 企業集団として一体的に統治をしていくためには、親会社が定めた方針を子会社が守ることが必要となります。たとえば、子会社がそれぞればらばらに事業を展開して、親会社・子会社あるいは子会社同士が同業で競争してしまうカニバリズムになってしまったり、子会社が親会社の信用を悪用して、子会社の規模を越えるようなリスクを取ってしまうことは避けなければなりません。
 他方、親会社の統制として細かいことも全部指示をしていけば、せっかく子会社を設立した意義が没却されてしまうばかりか、かえって事業効率が悪化してしまいます。親会社は必ずしも子会社の細かい事情を理解しているわけでもなく最適な指示がされる保証もありませんし、子会社もまた何でも指示されれば、事業に対する責任感がなくなってしまうからです。やはり、任せるところは子会社の自主性に委ねることが必要となります。
 このように、親会社の指示をすべき領域と、子会社の自主性に任せる領域とをきちんと整理して運用することが、企業集団統治のもっとも重要な命題というべきでしょう。

4.企業統治の手法
 親会社の領域と子会社の領域を分けたうえで、親会社の意向をどのように子会社に反映するかという手法について、自分なりに長い間考え、いろいろな人とも議論してきましたが、次の3つの方法に集約されるのではないかという結論に至っています。

(1)組織法モデル
 親会社は子会社の株主ですし、また、親会社の役員・従業員が子会社の取締役として選任されていることがほとんどかと思います。会社法上用意されている株主総会、取締役会という機関を通して、親会社の意向を子会社に反映していくことができます。この方法は、100%子会社に限らず、ジョイント・ベンチャーでそれぞれの出資者がJV子会社の意思を決定していく手法としても用いられています。

(2)人事モデル
 子会社の幹部を親会社の役員の部下と位置づけて、ジョブ・ディスクリプションの中に子会社の一定の項目はボスの承認が必要と定めておく方法が、外資系企業ではよく用いられています。伝統的日本企業の場合は、法人格の壁が厚く、会社間を跨いだ上司部下関係を作ることに抵抗があるかもしれません。

(3)契約モデル
 親会社と子会社との間で契約を締結し、一定の経営判断には親会社の承認が必要だと定めることができれば、子会社は契約上の義務として親会社の判断を仰ぎ、親会社も契約上の義務として子会社に最適な経営判断をすることになります。ただ、子会社がこの契約を締結すること自体は親会社の指示ではなく自主的な判断でなされるということが前提です。また、特に国を跨ぐ親会社および子会社との間では、経営指導の対価をどう設定するかが、移転価格税制上検討しなければならない課題となります。

 以上、今まで考えてきたことをつらつらと書いてみましたが、あまりベンチマークなどもなく一人よがりで考えてきたことばかりですので、この機会にご批判を賜れれば幸いです。

 それではmortdoreeさん、よろしくお願いします。

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