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12/06/2017

定型約款に関する国会での法務省答弁について(2)

2.定型約款とは何か
新548条の2第1項本文は次のように規定している。

 

(定型約款の合意)
第五百四十八条の二 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

そこで、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とはどういうことなのかが問題となる。まずはこの点についてどのような答弁をしているのか見てみよう。

定型取引に該当する取引は、画一的な内容であることが合理的であると客観的にも評価することができるものであるため、取引の相手方である顧客は契約の細かな内容には関心を持つことがなく、その内容を認識しないままに契約を締結するのが通常であるものと想定される。したがって、一般的に言えば、事業者が極めて多数の顧客を相手に契約を締結するような取引であり、かつ、取引を円滑に行う観点から契約条項を事前に事業者が作成しておくような取引が該当するものと考えられる。 このような定型約款の具体例として、鉄道の運送取引における運送約款、宅配便契約における契約約款、パソコンのワープロソフトの購入契約に附帯する購入約款、電気供給契約における電気供給約款、保険取引における保険約款など、インターネットを通じた物品売買に関する購入約款など、これらが広く該当すると考えられる。[R193:9:8:小川、参193:9:8:金田]
不特定多数について、何人を超えたらという基準はない。[S193:9:8小川]
客観的な定型約款なのか、それ以外の契約書なのかということは、548条の2の定義によって決まる問題であり、当事者の署名捺印がある契約書であるからこれは定型約款に当たらないというようなことではない。当事者の署名捺印そのものは、定型約款であるかどうかの性質に影響を及ぼすものではない。定型約款に当たるとすれば、仮に署名押印があっても変更が認められる。 [R192:15:19小川]

以下、具体的な該当性について、次のような見解を立案担当者は示している。

(1)事業者間取引

当事者の一方があらかじめ準備した契約書のひな形を利用して契約が締結されるということが事業者間取引では多い。もっとも、事業者間の取引では、通常、ひな形どおりの内容で契約をするかどうかは当事者間の交渉で決まることが予定されており、画一的な契約内容とすることが相手方にとっても合理的であるとは言いがたい。したがって、事業者間の取引において用いられる当事者の一方が準備した契約書のひな形は、一般的には定型約款の定義には該当しない。[R192:15:10:小川]

事業者間の取引であるから定型約款に当たらないというものではない。ただ、いわゆるひな形のようなものは変更の、条項を変えるようなことは十分に考えられるので、定型約款の定義には当たらないものと考えている。[S193:12:22:小川]

(2)労働契約

相手方の個性に着目して行われる取引においては、その個性に応じて取引を行うか否かを決するので、定型約款の規律の対象として、取引を円滑、迅速に、安定的に行うことができるようにする必要性は乏しい。労働契約を締結するかどうかは、一般に、相手方の能力、人格などの個性に着目して判断されるものであるので、不特定多数の者を相手方として取引するにも当たらない。したがって、労働契約のひな形なども定型約款には該当しない。[R192:15:10-11:小川]

労働契約は個性が重視されるので、その意味では定型約款には当たらない一つの類型と言える。[S193:12:22:小川]

(3)フランチャイズ契約

フランチャイズ契約には、いろいろと問題も指摘されるところもあるが、それは基本的に、定型約款の性質そのものというよりは、両者の交渉力の差の問題であるので、その意味では事業者間の契約ということで整理をしている。[R192:15:11:小川]

定型約款を用いた取引の当事者の間には、交渉力や情報力の格差があるケースというものが少なくない。しかし、このような交渉力、情報力の格差そのものを是正する観点からの法規制というものは、消費者契約法といったような、民法以外の法律によって行われているところであって、こうした格差から生ずる悪影響については、今回の改正法案が結果的にその是正に効果を発揮する面があるとしても、民法以外の法律によって適切に対応されることが期待される。[R192:12:13:金田]

(4)銀行取引約定書

銀行取引約定書は、個別に交渉して修正されることもあり、その意味では、画一的であることが合理的であるとは言いがたいので、定型約款には当たらない。[R192:15:19:小川]

(5)住宅ローン契約書、消費者ローン契約書

住宅ローン契約書については、画一的であることが合理的であると言えるために、定型約款に該当すると考えられる。消費者ローン契約書も定型約款に該当すると考えられるのではないか。[R192:15:19:小川]

(6)居住用建物賃貸借契約書

個人が自己の所有する建物の一室を第三者に賃貸するといった場合には、仮に市販のひな形などを参照して契約書を作成したとしても、それは事務の簡易化などを意図したにすぎず、取引内容が画一である必要性が存しない。このような事情は、自己の所有する土地上に比較的小規模な賃貸用の建物を建設し、その居室ごとの賃貸借契約を同一の契約書に基づいて締結しようとする場合でも基本的に同様であり、取引内容を画一にする必要性は高くない。また、賃借人の側から見ても、契約内容が画一であることから利益を享受しているとは言えず、賃借人にとって、画一的であることに合理性があるとは言いがたいのが通常である。
他方で、複数の大規模な居住用建物を建設した大手の不動産会社が、同一の契約書のひな形を使って多数に上る各居室の賃貸借契約を締結しているといった事情がある場合には、契約内容を画一的なものとすることにより各種管理コストが低減し、入居者としても契約内容が画一であることから利益を享受することもあり得る。そのような場合には、個別の事情により、例外的にひな形が定型約款に該当することがあり得ると考えられる。[R192:16:18:小川]

(7)インターネット取引

インターネットで、同意する、同意しない、という箇所をクリックする、それがたまたま契約をした人が五人かもしれない。ただ、観念的には百人かも、一万人契約するかもしれない。そういうものをここで言う定型取引と考えるかどうか。[S193:9:9:盛山]

(7)の盛山副大臣の答弁は、議事録から見ると定型取引にあたるのかあたらないのかちょっとわからない。
そこで、(1)から(6)までを読んでみると、大体次のような傾向があるように思われる。
まず(1)にあるように、事業者間契約だから当然に定型約款に該当しないということはないものの、通常企業間で用いられる契約書ひな形は定型約款には含まれない。(2)の労働契約も定型約款には含まれない。これら2つは、審議過程を通して定型約款に含めるべきでないという強い意見があったため、含めない趣旨で立法した、ということだと思われる。(もっとも、改正法の条項文言が、一義的にそのような解釈しかないのか、というとそれは別の問題である。)(3)からは、当事者の交渉力の格差は定型約款該当製品には影響を与えないこと、格差の是正は定型約款の規律の立法趣旨ではないことが判る。(4)及び(5)についても、おおむね消費者契約でのひな形は定型約款に該当し、事業者間のひな形は該当しないという傾向にあるように見える。ただ、利用者の審査のある金融領域の契約書が文言上「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的」と言えるのかについては、金融業界でも様々な見解が出ており、一概に立案担当者の見解が支配的見解になるかどうかについては疑問なしとはしない。
(5)が約款に関する国会答弁の中で最も実務にインパクトを与えたものの1つである。というのは、従来住宅に関する賃貸借契約書は、定型約款に当たらないとする見解が支配的であったからである。たとえば、東京弁護士会法友会全期会 債権法改正特別委員会(編)、弁護士が弁護士のために説く債権法改正 事例編、179頁(岩田修一、加藤芽那)では、「不動産賃貸借契約に関しては、必ずしも不特定多数を対象とするものとまでは考えられていない。また、賃料、賃貸借期間等については、個別の規定をすることとなることが多い。そのため、原則として定型約款とはいえないと考えられている。」として定型約款該当性を否定していた。また、賃貸借契約ではなく不動産売買契約ではあるが、山野目章夫、新しい債権法を読みとく、172頁が「不動産の事業者からマイホームにする不動産を買うとき、「当社が印刷して用意している雛型で売買契約をしていただきます」と求められ、おそらく個別の交渉をする余地はあまりないという場合も、不動産は商品として個性に富み、大量の取引を迅速にすることが合理的であるとみることが必ずしもできないし、「一生に一度の買い物ですから、持ち帰ってよく読んでみます」ということになることも多いから、契約化目的性に欠ける。」としているのも、趣旨としては不動産賃貸借契約も定型約款に該当しないとしているように読める。
この点、最近出たセミナーにおいて、法制審部会委員でもあった岡弁護士が、約款準備者である事業者のクライアントに対し、手続きと内容とに自信があるのであれば、定型約款だと言ってしまえば、相手の同意なく契約の変更ができますよ、とアドバイスしているとの話が気になっている。事業者としては、民法に定型約款の規定が入った以上は、その最大限のメリット(具体的には同意なき変更)を活かすべく、対消費者向けあるいはコモディティ商品の供給であれば対事業者向けであっても、定型約款に含まれるという主張をしてくることが予想されると思われる。(逆に、約款規制を導入すべきだと言っていた学者の一部が、法案提出後民法における定型約款の規律に対し極めて批判的になり、消費者契約法において、民法を上書きし改正内容を無効化すべきという主張をしていることも興味深い。)
(この項続く)

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