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12/17/2017

法務組織の(中間)管理職は何をしているのか #LegalAC

この投稿は、法務系Advent Calendar2017 の参加エントリーとなります。@NH7023さんからバトンを引き継ぎました。

本当は「どうした!巨神兵 ―大弁護士の落日―」という記事を書くはずだったんですが、@NH7023さんのエントリーを読んで、気が変わりました。

ネット界隈で企業内法務について語られるとき、法務部門全体か(外部である弁護士の視点が多いような気がしています)、法務担当者(中の人の視点が多いような気がしています)を対象としているものがほとんどだと思います。法務部門が企業内の組織(※1)である以上、そこには担当者だけでなく、管理職も存在します。しかし、管理職が何をやっているのかは、外部からだけでなく、内部からもよく分からないのではないでしょうか。この点、北島さんが以前BLJに連載していた「戦う法務課長」を読んで、おお、さすが課長ともなればすごいな、とまだ担当者であった私は思ったのでしたが、いざ自分が法務管理職となり、他の組織の法務管理職の方とも交流するようになると、ちょっと違うのかな、という印象を持つに至りました。北島さんのお書きになられた世界は、商社という超大型法務組織が存在する中の、シニア担当者(少しはマネジメント要素もありますが、マネジャーというよりはメンターの側面が多い)としての法務課長なのではないか、管理職としての仕事はむしろ上席の法務部長が行なっているのではないか、と。

そこで、法務管理職の仕事とはどんなものか、自分の知見をもとに書いてみることにします。もちろん法務組織の大きさや業種、組織の役割によって、法務管理職の仕事も千差万別であり、乏しい自分の知見をもとにする以上、これから書くことは必ずしも一般的なことかどうか自信はないのですが、何かの参考になれればと思います。

1.法務管理職とは何か?どこから来たのか?
ここで取り敢えず論究の対象とする「法務管理職」とは、部長、課長、主任、主査という名称を問わず、担当者としての仕事よりも管理的な仕事が主たる役割の人を言います。基本的には自分から上席は法務専従ではなく、法務としての専門知識もないことが前提となります。この点、アメリカ企業に見られるGeneral Counsel(GC)とか、Chief Legal Officer(CLO)は、法務としての役割を超えて経営者としての役割が期待されていますから、「(中間)管理職」とは異なると思います。むしろ、法務の枠を超えて、経営者としての識見も求められているのではないでしょうか。法務管理職は、そこまでの役割ではなく、せいぜい1部門の長として、その上に経営層(この中には法務担当もいれば、法務とは対峙することもある他部門の担当もいます)が存在することになります。

法務管理職には、どのような出自の人が就くのでしょうか。

私の考えでは、3タイプいると思います。

まず「宿老」型。古い日本企業で、法務組織の歴史がそこそこある場合、法務組織には、生え抜きとか、ローテーション型人事の会社であっても例外的に長く配属されている法務担当者がいます。その中から管理職としての仕事もできそうという人が法務管理職に就くということがあります。

次に「傭兵」型。法務組織の歴史が短いとか、最近急速に拡大・充足した場合には、前述した宿老が存在しないということがあります。あるいは、一旦宿老が法務管理職に就いても、他部門に異動したり退職した後、宿老がもういない、ということもあります。こういう場合に、他社の法務経験者や弁護士を新規採用して、法務管理職に就けるということがあります。最近は、歴史のある法務組織で宿老がそれなりにいても、敢えて傭兵型の法務管理職を採用する企業も出てきました。おそらくこのような企業は、法務組織をより専門組織として活性化するために、年功序列型の法務組織に新風を入れたいのではないかと想像しています。

3つ目が「落下傘」型。これは、他の組織の運営経験はあるが、法務としては素人の管理職を、法務管理職として異動させる事例です。法務担当者はいるが管理職に適していない場合その上のいわば御神輿役を期待されている場合とか、法務としての専門知識はむしろ顧問弁護士や外部専門家に委ね、社内調整を重視したい場合などにこのような事例があるのではないかと思います。

2.現場仕事はできない、してはいけない、しない
この3つの中で、自分は宿老型でしたので、法務管理職になった後、今まで主として行なってきた法務担当者としての仕事、具体的には、契約書のレビュー・審査、契約交渉や裁判手続きへの同席、社内からの法務相談、弁護士相談への同席といったことがほとんどできなくなったということに1番のカルチャーショックを受けました。

何故そうなってしまったのか。一つには、そんな時間はない、ということが挙げられます。自分の管理領域が広がってしまったので、全ての業務に担当者として関与することはできません。特に、長期に渡る契約交渉というのは、留守中に別のことが起こったときに対処できませんから通しで関与することは極めて困難となります。

しかし、それよりも大きな理由は、自分が直接関与できる仕事しかできなければ、組織成果は所詮その管理職の能力を超えることができないということにあるように思います。部下の中には、自分が持っていない能力や才能(※2)がある人がいっぱいいる、自分はできないがその人たちに委ねることで、組織としての仕事を非連続的に突破することができるのではないか、ということです。また、自分ができるからということで現場仕事をやってしまえば、その分担当者としては楽をできる訳で、彼らの成長を妨げてしまうといったこともあります。

そのような観点からは、自分が宿老であっても、基本的には担当者の現場仕事はしない、余裕があってもやらない、ということが原則になるのではないかと思っています。これは、法務に限ることではなく、管理職になるまではスーパー担当者として輝いていた人が管理職になった途端輝きを失うという残念な事例を見ていると、管理職としての切り替えができなかったのではないか、こういう人はむしろスーパー担当者としての仕事を突き詰めるべきであって、できる仕事とやれる仕事とのミスマッチだったのではないかということなのかもしれません。この点は、いつまでも固有の技を使い続けるシニア・パートナー弁護士とはちょっと違うかもしれません。

3.組織としての成果の最大化
それでは、担当者仕事をせず何をやっているのか、といえば、法務担当者それぞれの個性を最大限に生かし、組織成果につなげる、という仕事が主となります。

一番わかりやすいのが担当者の業務のアロケーションでしょうか。どの案件を誰に割り振るか、どういうチームアップをするか、といったことに法務管理職は常に気をつけています。この点、法務組織によっては、チーム制を敷いて、原則的に取り扱う領域や担当部門を分けていることがあるのですが(私の勤務先もそうです)、そうであっても、今回はチーム横断にした方がいいのではないか、とか、チーム替えのときにどういう組み合わせがいいのか、といったことは常日頃から考えています。

チームアップでいうと、法務担当者のリクルーティングも重要な仕事です。日本企業の場合、部門が直接雇用することはあまりありませんが、どういう人が法務組織には必要かということを人事部門に説得する必要があります。逆に、法務担当者の中には、法務が向いていないとか、向いてはいるけど井の中の蛙から飛躍するために、ここは一旦外に出た方がいいという人がいます。こういう人が納得して法務を卒業してもらうためにどんな働きかけをしたらいいのか、法務管理職になれば悩むところになります。

総じていえば、法務部門をオーケストラとすれば、法務管理職は指揮者といったところでしょうか。指揮者は自らは演奏はしませんが、どういう早さ、強さで演奏するか、どの楽器を強調するかということを通して、オーケストラの演奏全体を創造していくというイメージです。

他方、会社方針を担当者に伝えて、それを組織方針に落とし込んでいくということも管理職として必要な仕事です。管理職になって一番変わったことは、基本的に、自分が作っていない文章を自分の言葉として話さなくてはいけない機会が増えたということです。これは、会社方針(要は他の部門の担当者が経営者の言葉として作った文章)を担当者に対しては、自分の言葉として語らなくてはならないということです。その逆に、法務担当者の作った文章を法務部門の意思として自分の言葉で他部門の管理職や経営者に語らなくてはいけないこともあります。このように人の言葉を自分の言葉として使いこなすことを通して、組織全体が一つの有機体として機能することから、管理職のメディアとしての役割は極めて重要だと言うことができると思います。

4.業際問題
法務組織内だけでなく、企業全体の中で法務組織がどのような役割を担うのが、企業全体にとって必要か、ということも法務管理職が考えなければいけません。コンプライアンス、リスクマネジメント、コーポレートがバンスといった業務は、必ずしも法務組織が担当していないということがありますが、法務とは極めて密接な関係性があります。このような領域にどこまで法務としての関与していくのか、ということを考えると同時に、先駆的に法務担当者ではなく、管理職自らが乗り出していくこともあります。先日caracalooさんが言われていた人事・労務部門との業際問題も、中身の機密性から法務部門では管理職しか触らせてくれない、ということもよくあるところです。

6.シニア担当者としての法務管理職
法務管理職であっても法務担当者としての役割があることが例外的にあります。宿老型と傭兵型のように法務管理職が法務スキルがそれなりにある、という場合が多いですが、落下傘型も法務部門を統括する者として逃れることはできないのではないかと思います。

まず、「エライ人」からの直接のご下問。エライ人から見れば、管理職はいわば末端の窓口ですから、(下作業は担当者にやってもらったとしても)その場は自分の責任として質問を受けて返す必要があります。このような問題は、往々として全社的に重要な問題ですから、経営トップが直接関与する領域については、自分が現場を代表して担当者として振る舞う必要があります。

特別に守秘の必要の高いディールについては、法務管理職までしか情報が降りてこず、末端の担当者として活動せざるを得ないときがあります。自分の前任者たちをみてみても、上場会社のM&Aとか組織再編などは、担当者に落とさず管理職がこっそりやっていたということが多かったと記憶しています。

あと、@caracalooさんの言っていた「政治案件」。これが何を指すのかはいろいろでしょうが、社内政治もあるし、本当の政治家の絡んだ話とか、業界内の話とか、何とも曰く言い難いものがあります。これもなかなか担当者が触れることなく、こっそり管理職が担当者として処理してしまうことが多いと思います。前述した労務関係もこのカテゴリーに入る場合があるかもしれません。従業員が突然逮捕されたとか、離婚をした元配偶者が給与支払債務を差押えてきたなどのときには、誰の話かわからないように進めるのが重要ですので、人事部門は関与する人をできるだけ絞りたがるものです。

実のところを言えば、こうした担当者仕事をすることが、法務管理職として現場感覚を維持することに役立っているという側面があります。特に、宿老型や傭兵型の場合、担当者が何を苦労しているのかという点を分かるという意味でもある程度の現場仕事が残っていた方がいいのではないかと思っています。

7.組織の外に出る、訳のわからないものに手を出す
担当者は、どうしても目先の仕事に集中せざるを得ず、他者の目や異質なものとの触れ合いがおろそかになりがちです。もちろん、自らのキャリアアップのために積極的に社外の人との繋がりや新しいものに興味を示すという人はいますが、自分の所属する組織の活性化のためにも異質なものを取り込むことは重要です。

私の前任者たちも、管理職になるまでは社内飲みもそこそこしていたのが、管理職になると定時で帰り、社外の人達との交流を図っていたように思えます。自分も、経営法友会など、他社の法務管理職の人達との交流や、企業団体や弁護士さんたちとの交流など、交流の質や幅が法務管理職になってかなり変化したことを感じます。

また、所属する組織としてはまだ時期尚早だとか、直接の関係がない異質なことや新しいことも、どういう形で突然業務に関係してくるか分かりませんから積極的にアンテナを拡げておくということも、直接の担当業務の少ない法務管理職として行っておくべきことではないかと思います。このアドベントカレンダーでも触れられているAIとか、企業法務はLGBTにどう取り組むかといったテーマ、SDGsなど隣接分野についても、アンテナを張って取り込んでいくテーマです。

8.まとめ
若い世代が、法務を極めてキャリアアップとか、じゃあ極めた後に何が見えているのかといったことで盛り上がっているのを見て、ちょっと違うよな、と思い、おじさんポエムを書いてみました。とは言ってもおじさん(おばさん)ごとに見えている世界は、担当者以上に多様ではないかと思います。

明日は@musclar_muscleさんです。よろしくお願いします。


(※1) 法務が組織というレベルに達していないいわゆる「一人法務」や「小規模法務」の場合は、管理職が分化せず、シニアな担当者あるいはマネージングプレイヤーということが多いと思われます。

(※2)担当者としての法務的技術に限らず、法務管理職が持ち得ない人脈というのもあります。例えば、法務管理職が「出入禁止」を食らっている弁護士(長くやっているとそういうこともあるんです)に相談にいける、部下が弁護士資格を持っており、法務管理職がそうでない場合、弁護士会ギルドに部下を通して働き掛けることができる、部下の出身学校や前職のコネクションを使う、といったことは、法務管理職個人ではなし得ないことです。

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