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07/15/2018

メール+ワードという契約交渉方法

先週、Legal Tech Forum
というイベントを見てきまして、少なくとも契約法務の「テック」化を推進する人たちにとって、

メール+ワード

というプラットフォームをどう乗り越えるか、ということが大きなテーマであるということを再認識しました。

ところで、このメール+ワード(の変更履歴)で契約案文の検討(社内審査、弁護士レビュー)および交渉を行うスタイルというのは、どのようにしてデファクトスタンダードとなったのか、また、それ以前はどうだったのか、ということについて、自分の経験と想像とで考えてみることにします


ワードプロセッサ
日本語ワードプロセッサができたのが1970年代末で、80年代半ばには個人用ワープロ専用機が学生にも普及していたのですが、オフィスでホワイトカラーが自らキーボード経由で自分の思考をまとめていく、というのは、90年代半ばに入って、パソコンが1人1台になってからだと思います。それまでは、ワープロというのは、一部の人を除き、清書の道具として使われていた、つまり、思考をまずまとめるのは、紙と筆記用具であり、テキストデータはそれを写したコピーとしてあったということです。
80年代末から90年代初頭の「トレンディ」なドラマとか映画とかで、若手サラリーマンの机の上を見ると、サザエさんの波平さんと同じように、書類とペンくらいしか乗っていないことがわかります。
90年代に入って、学生時代はパーソナルワープロで論文を書いていた人たちはどうしたかというと、執務机から離れたところにあった「コンピュータ室」に籠って、ワープロとかDOSで走る一太郎とかを使って、文書を作成していましたが、オヂサン達からは、「オンナノコと同じ機械使って、仕事しろよ」と(二重の意味で)謂れ無き差別を受けていた(※1)のですよ。

※1 逆に、当時の「清書」としてのワープロという考えは事務職にも徹底しており、一旦浄書した文書を推敲して加除すると、作業が無駄になると言って、一旦手書きとして完璧な文書を求めるオネエサマもいらっしゃいました。怖いオネエサマに叱られるから、新卒のタッチタイプできる若手に、オヂサンは、自分の書いた手書きの資料の浄書を休日出勤させてやらせてもいましたね。

データ共有
オフィスにPCが1人1台となったのは、キーボードを使って文書を作れ、ということではなく、PCをネットワークで繋いで、電子メールでコミュニケーションを取るということが契機でした。技術的にもWindows95からOSがLAN機能を標準装備するようになり、ワーカー
1人1人にメールアドレスを付与してデータのやりとりができるようになりました。
それまでは組織の共有すべきファイル(文書雛形など)はハードディスクに、個人用ファイルはフロッピーディスクに収納していたのが、組織内外の人にファイルを直接送れるようになりました(※2)。

※3 ただ、PCが1人1台となったからといって、オヂサン達が直ちにメールを自分で書けるようになったわけではなく、一方的に読むだけ、とか、せいぜい「了解」などの短いメッセージを送るだけだったのが、その後も10年くらい続いていたと思います。なので、メールを送った後、「メール読んでいただいたでしょうか」と電話で確認を取るのが礼儀だとされた頃もありましたね。

ネットワークセキュリティ
ただ、90年代後半のネットワークというのは、今から見るとびっくりするくらいセキュリティが甘くて、
・ログを取っていなかったので、連日深夜まで残業する若手が不適切な画像を夜な夜な閲覧していた。(上席者も昼間鼻毛を抜きながらゲームしていたりして人のことを全く言えなかった。)
・組織内ネットワークのウォールがないので、社内の重要情報がリテラシーのある人にとってはダダ漏れ。
・組織内外のウォールも無く、外部から組織内メールサーバに直接アクセス可能。
といった体たらくでした。また、(当時のシステムやアプリケーションが、本当にそうだったかということは別として、)もともと学術利用から始まったインターネットメールでは、データは公共財産であり、メッセージ本文も、添付ファイルも、簡単に読まれる可能性があったとも言われていました。守秘性を重んじる弁護士事務所とかでは、外部にはインターネットメールではファイルを送らない、という運用を2000年くらいまで続けていたところもありました。
21世紀に入る頃には、組織内のセキュリティも一応整い、メールでデータ送信することそれ自体がセキュリティ上問題だという話はあまり聞かなくなりました。(実際にはデータ漏洩とか、外部侵入といった例はむしろ増えているのではないかと思うのですが。)

大量のコメントを直接編集する形での仕事の仕方
話を契約法務に特化すると、21世紀に入った頃には、ドラフトを契約レビューでも契約交渉でも変更履歴を用いるというやり方がスタンダードになりましたが、90年代後半までは、そもそも変更履歴機能がワープロソフトに実装されておらず(※3)、ドラフトを細かく修正するという仕事の仕方が存在していませんでした。
ドラフトのレビューとか、交渉での修正要望は、活字時代の校正のように、印刷された案文にペンで加除したり、修正要望する条項を表形式で示すという方法(※4)がありましたが、これらの方法ですと、あまり沢山コメントを入れるということが事実上困難だということもあって、コメントは現在に比べればかなり絞り込んだものであったと思います。
なお、当時もファイナンスとか一部の取引類型では、長文のドラフトを弁護士がレビューして、お互いに修正要望を出し合いながら詰めていく、という領域がありましたが、上述したように、メールでの送信や、ワープロのアプリケーションの不一致といった事情があったころは、ドラフトを最終的に取りまとめて印刷する法律事務所を決めておいて、ファックスやバイク便で届いた修正要望のうち確定したところをその事務所が清書するという運用を21世紀になる直前まではしていたようです。

※3 その頃圧倒的なシェアであった一太郎にはもちろんありませんでしたが、おそらくWordもTrack Changes機能はWord97まで実装されていなかったと思います。アメリカでも元々Track ChangesはWordPerfectだけしか無くて、それであるがゆえに一時はWordPerfectがローファームでの標準ワープロソフトだったという話を聞いた記憶があります。

※4 今でも、ドラフトがPDFになっているときとか、伝統的大企業で変更履歴の使い方を知らない人が法務だったとか、仕事が忙しすぎて若手が全部出払っているときにスーパーシニアなパートナーがコメントするようなときに、まれに見ることがあり、懐かしいと感慨にふけることがあります。

Microsoft Wordのデファクトスタンダード化
今まで書いてきたように、

・オフィスワーカーがキーボードに自分の考えを直接入力できるようになり、
・ネットワーク経由でデータを送ることに対する一応の信頼が醸成され、
・文書をそれぞれの関係者が直接編集して、その編集過程を全員で確認できる「変更履歴 Track Changes」を通したドラフト編集
といった仕事の仕方の定着と同時に、契約書ドラフティングでのMicrosoft Wordのデファクトスタンダード化が進行していきました。
このようなスタイルが確立されてほぼ20年が経過しますが、今後の展開にあたっては、なぜWordがデファクトスタンダード化するに至ったのかという分析を改めて詰めていくことが不可欠ではないかと思います。

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