« メール+ワードという契約交渉方法 | Main

12/16/2018

法務部長にとっての「坂の上の雲」を読んで

この投稿は、法務系アドベント・カレンダー 大井哲也 @tetsuyaoi2tmiさんからの流れとなります。

Ben HeinemanというGEのGeneral Counselをされていた方の本が今年「企業法務革命」という題名で邦訳されて、主として法務部長クラスの人たちの中には、熱狂的に読まれています。
また、経済産業省が今年4月に報告書を取りまとめた国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会も、「企業法務革命」の問題意識の延長戦で議論がされていたと言えるでしょう。

他方、この本の何が面白いのかわからない、とか、日本とは違いすぎる、といった反発も見かけるところです。例えば、こちらのアマゾンでの書評がそうですし、BLJでの @ahowota さんの書評もその一つと捉えられると思います。

一部の人(それも比較的高年齢)が熱狂的にはまっているのを、若年層、中堅が冷静に見ているこの構図に既視感があるなと思っていたら、「坂の上の雲」にハマるおじさんと同じだな、と気づきました。「企業法務革命」は、著者が企業法務を引退した後のバイアスがかかっている、記憶の美化乃至正当化フィルターがかけられた後の、抽象論(昨年度の法務系ACの流行り言葉で言えば「ポエム」)という側面があることを、まず前提にして読む本だと思います。したがって、「この本を日本にそのまま当てはめても現実的でない」という批判は、おとぎ話が現実的でない、というくらいに意味がないことだということです。

おとぎ話はおとぎ話である。そのうえで、General Counsel(以下GC)という主として米国に由来する企業の法務責任者の存在が、日本企業で法務として働くひとたちにどういう示唆を与えうるのか、ということを考えてみたいと思います。

GCはどういう機能を果たしているのか
「企業法務革命」とかGCに就いている人の話を総合すると、GCが理念的に果たすべき機能は、大きく2つ、(1)法務機能を統括すること、と(2)最高経営責任者に常侍すること、とがあると思います。
統括とは、端的に言えば、法務組織あるいは法務関係のすべてのヒト、モノ、カネを掌握するということです。ヒトは、国内外の関係会社を含む全ての法務担当者(スタッフ部門のコーポレート法務の人だけでなく、事業部に所属し、ライン法務を担当する人も含む)の採用、異動、考課、処遇の決定権を持つということ、さらにこれらの人に対し指揮命令権限を有するということです。カネは、外部弁護士への報酬予算決定権があるということ。モノとここでいうのは、法務に関係のある情報が全て集まる仕組みとなっている、ということだと思います。
最高経営責任者に常侍するとは、最高経営責任者が経営判断するにあたって、日常的にも、ここ一番というときにも、必ずGCに相談する、という関係ができあがっているということです。取締役会とか常務会(経営会議)に出席する、というだけでは足りない。法務機能、とここでいうのは、日本でコンプライアンスとかガバナンス、リスクマネジメントまで含む「大法務」までを含みます。(当然ながらこれは理念型であり、現実のGCがこの機能を全て備えているということを言うつもりはありません。)

在来の日本企業でGCという存在は許されるのか
さて、このようなGCは、当然ながら日本企業にそのまま成立するわけではない。そうならないのはなぜか。また、そもそもGCの存在を認めると日本企業の従来よかった部分をスポイルしてしまうのか。それが次に考えるべき点です。
この前で述べた「統括」という点でいうと、まず、ほとんどの日本企業には、人事部、という組織があります。法務部門の責任者が一存で採用、考課、配属ができるわけではありません。商社のように入社後基本的には法務部門から変わらない、という場合でも、程度の差はあれ、全く法務責任者の意のままということではないでしょう。ましてや、ある日1枚の辞令で、いきなり法務部門への、あるいは、からの異動が命じられるという企業であればなおさらです。法務経験のない従業員をいきなり法務部長に据える会社も、かなりの規模の会社であっても珍しくはありません。このような会社であれば、法務部長が全ての法務担当者に対してリーダーシップを発揮する、というのは、かなり難しそうだということが想像されます。なぜ人事部はそのようなことをするのでしょうか。これについては、もう少し後で、触れます。
「企業法務革命」では、会社が作った倫理は、海外展開する場合に、海外の法律に優先し、ある国の法律が企業の倫理と相容れない場合、その国からの事業撤退が望ましいということが示唆されています。まさにこの本がおとぎ話であることの証左であり、仮に著者がそういうことを言えたとすれば、当時米国という自国の論理を他国に押しつけることに対して極めて鈍感な大国において、企業の最盛期を迎え、市場を意のままに支配できたGEという会社に所属していたという偶然以外の何者でもないと思います。特に日本から海外展開していく場合には、欧米でも、アジアでも、日本の論理を押しつけるだけでは企業としての成長は望めません。逆に自らを外国の論理に合わせるという側面が法務部門にも存在し、法務部門の責任者が、海外の法務部門を統べるのが、単純にはいかず苦労することになります。結果、グローバル展開している日本企業の中には、各国の拠点の法務組織がばらばらに存在するというものもあります。(その意味では、米国弁護士を(名ばかりでない)GCに就任させたパナソニックの試みには注目しています。)
外部弁護士への報酬予算をコントロールすることも、特に金融事業の企業において見られるように、事業部門が弁護士に発注していたり、不祥事発生時には弁護士を含む第三者委員会が組成され依頼内容をコントロールすべきでない、というドグマのもと、高額な費用を取られたりしている日本企業の法務部門には、まだまだ遠いという印象を受けます。金融事業の企業では、伝統的に規制当局の法務部門への警戒感からか、コンプライアンスと法務とが分離され、さらに、典型的にはM&Aや回収業務に見られるように、ラインが直接弁護士に発注をしている、という「弱い法務」が志向されています。また、不祥事が発生したときの第三者委員会報告書には、監査機能の弱さを指摘し再発防止策として監査の充実を図るというのはよく見かけますが、弁護士にとって最も親和性のあるはずの法務部門に言及するものは少ない。あたかも、法務部門は弱いことが所与の前提であるかの如くである。もしかしたら、今は飛ぶ鳥を落とす勢いの危機管理弁護士にとって、米国型GCは、商売敵になる、ということを(無意識にも)気づいているかもしれません。
次に、最高経営責任者に常侍、という側面を考えてみます。日本企業の法務部門は、グループ全体の従業員数が1万人を超える大企業であっても、法務部がせいぜい30人程度であったり、法務責任者が単なる部長クラスで、その上席の法務担当役員は法務の専門家でなかったりすることが多いと聞きます。さらに法務担当役員も、社長の側近の4、5名の副社長等でなかったりします。
それでは、法務責任者がそのような側近になればGCになれるのか、というと、多分そんなことはないと思います。日本の多くの企業では、社長が常時相談するのは、コアとなる事業部門の責任者よりは、経営企画部長とか財務担当役員ということが多いでしょうが、実は、社長自身では、仕組み上も実態も、何ら独断で経営判断ができないことがほとんどです。社長を選任してくれた前・元社長が相談役や顧問として、社長が忖度する対象であることは、最近のコーポレートガバナンス議論の中で批判をされていますが、社長は、下に対しても、常務会(経営会議)という執行に関する実質的最高議決機関の合議結果を尊重しなければならないことになっています。創業家とか長期政権でワンマンと言われる経営者の場合には、実質的最高議決機関が形骸化していることがありますが、建前としてこれらの合議機関がないということはありません。米国型GCの場合は、これらの合議機関に代わって、法務の領域について最高経営責任者の相談に応じているのではないか、合議機関は、むしろ最高経営責任者を監督する取締役会にのみ存在し、最高経営責任者が合議機関の上に乗っかるということはないのではないか、と思っています(米国型企業で働いたことがないので、あくまでも予想に過ぎませんが。)
コーポレートガバナンス議論では、相談役・顧問だけではなく、それぞれの権限がはっきりしていない常務会(経営会議)にも目を向けて、それらの機能に代わるGCなどの個別の責任者の設置とのいずれが日本企業に向いているのか、きちんと検討していただきたいと思います。
少し前で触れた人事部という存在や、金融機関に対しての規制当局の見方にも繋がりますが、日本には個人に権限を集中させることを嫌い、分散させることを良しとする文化があるように思います。社長もその例外ではなく、共同体の中で何となく決まった結論に乗っかり、それを認証するに過ぎない1機関だ、という側面があるのではないでしょうか。これに対して、米国発祥のGCは、最高経営責任者が最後は全部自分で決めるということを前提として、自らも経営を担う者としてその相談に応じるという存在のように思います。であるからこそ、「企業法務革命」には、入社にあたって企業及び最高経営責任者のデューディリジェンスを行うことや、最高経営責任者との意見が一致しなければ退職する覚悟を持つこと、という「おとぎ話」が出てきますが、実際にそのようなことをするということよりは、理念として最高経営責任者とGCとの関係はそういうものだ、ということを説明しているものだと私は理解しています。

次は @ysaksmz さんです。

« メール+ワードという契約交渉方法 | Main

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 法務部長にとっての「坂の上の雲」を読んで:

« メール+ワードという契約交渉方法 | Main