#企業法務 案件の受付、担当者の案件配転について
一連の擬古文で呟いたところを、頭の整理としてザクっとまとめてみることにする。
ただの分類に過ぎないので、結論は特にない。
1. 案件の受付
法務相談、契約審査、訴訟等裁判手続き、プロジェクト・ディールその他法務で受けるべき案件について、法務(組織)がどのような形態で受け付けるかについては、大きく分けて一定の様式をあらかじめ定める場合と、様式・方法自由の場合とがある。
(1) 一定の様式による場合
案件の受付は、特定のフォームに入力するとか、案件受付ワークフローがあるとかの方式。法務として取り扱うすべての案件を同一の様式で受け付けている場合もあるが、特に秘匿性が高い案件の場合には例外処理が必要になることもある(事後入力し網羅性を維持するなど。)。法務相談は様式自由だが、契約審査は一定の様式を要するというように、一定の類型の案件に限定するハイブリッド方式もある。
案件のデータベースの構築がしやすく、案件の進捗管理や、過去案件の検索に資する。他方、利用者としては、一定の様式に入力しなければならない負担をかけることとなる。それでも契約書案をチェックしてくださいとか、取引相手が代金を払ってくれませんというように、文書化が容易な案件であればそれほどの負担ではないが、なんかよくわからないけど違和感があるとか、そもそもどうやって進めたらよいかわからないというような言語化困難な案件については、法務に向かう足を遠のかせるという問題がある。これらの言語化が難しい課題を法務がどう拾っていくかという課題があることを認識しつつ、様式による受付の制度設計を考えていくことになろう。
(2) 様式・方法自由の場合における各方式のPros. & Cons.
① 個人あてメール(個別チャット含む)
主として相談類型が多いと思われるが、「添付の契約案文を見てください」とか、「こういうことをやりたいんですが、何か問題はありますか」という文章を法務あてに送付することを案件の端緒とする。前述の様式受付が強制となっている企業でなければ、最近はこの形が多いのではないか。法務の誰に送ればよいのか、というのは後述。文書化のハードルは様式入力の場合と同様だが、自由様式なので、多少低いかもしれない。受け付けた法務担当は、一見相談内容が明確でも、必要な前提事実が抜けているかもしれないので、そのままメールで返すということはほとんどなく、更にメールでやりとりするとか、必要に応じて打ち合わせを入れるという補足手法は必要になることが多い。
受付後このまま案件を処理していくことはできるが、そうすると、あとで見たときに何をやっていたのか、どういう回答をしたのかの検索・検証が困難になるので、適宜やり取りの概要や結論、特に回答内容を別途記録化して検索が容易なところに格納しておく必要がある。そうしないと仕事がいつまでだっても属人的、刹那的になってしまい、何時まで経っても成長しない。更に、法務担当者の人材流動性は相対的に高いので、退職されると何をやっていたのかが分からなくなってしまうことになる。
② 電話、ぷらっと訪れる
相談にあたって、文書化のハードルが高い場合に、法務担当者に電話してきたり、担当者のところにぷらっと訪れてきたり(そういう人向けに、上席の法務担当者の席の隣に簡易スツールが置いてある、という話も聞いたことがあるが、コロナ禍での在宅勤務、フリーアドレス化でその文化も廃れてきているかもしれない)して、世間話のように論点を絞っていくというやり方が採られることがある。法務として何か明確な回答を話したわけではないが、事業担当者が一しきり話してすっきりして帰っていくということもある。法務としてのハードルを下げて、法務が企業活動に資する機会を提供する場としてはよいが、ずるい事業担当者から「法務確認済み」という言質を取るための機会として使われることもある。結局ブレストとしてはよいが、これだけでは足りずに、正式な法務としての見解が必要な場合には、別途の機会を設定するようにするとか、議事録を作って双方確認して、言った言わない問題を引き起こさないようにするような工夫は必要。また、前述のメール相談と同様かそれ以上に、担当者のブラックボックスとなるリスクが高いので、適宜記録化することを励行しておく必要があるだろう。
③ キックオフミーティングを設定
案件担当者が法務担当者と会議を設定してから、案件の検討を開始するという方式。一旦案件受付後に打ち合わせをするということは通常であるが、受付の要件としてキックオフミーティングが必要であるという厳格な方式を取るというのは、M&Aとかの大型案件を除くとほとんどないのではないか。
④ 専用メールアドレス
上記の2つの類型と比べて、かなり様式への入力に近い。個人アドレス宛であれば、受付と担当者への配転とがぐちゃっとしていることになるが、専用アドレスであれば、受付と個別の担当者への配転とは当然に独立することになる。
⑤ 専用チャットルーム(チャンネル)
チャットルーム(Slackのチャンネルなど)に入力することで相談の受付とする。専用様式への入力や専用メールアドレスと似ているが、当該チャットルームを見ることができる人は、他の相談内容も分かってしまうことが大きな違いか。したがって、企業自体が小さいとか組織が未分化であるような場合だとか、特定の社内であれば誰に見られてもよいような内容に限定しての運用となるのではないか。(この辺り自分の組織では未経験なので、よくわからない。)
2. 担当者の案件配転
(1) 部門ごとに担当を定める
依頼元の部門ごとに担当者を定めておく方式。ある程度大きな法務部門の場合、依頼元に応じて組織を分けているところが多い。(少し前の事例であるが、たとえばhttps://www.businesslawyers.jp/articles/145 参照。)また、企業グループ全体の法務部とは別に、事業ユニットごとに法務組織を置く事例(これも同じくらい前の事例だが、https://www.businesslawyers.jp/articles/152 参照。)も一類型だろう。法務部門内の部-課-チームと小さい組織に応じて、担当する依頼元部門も細分化されてくるが、最後にどの担当にするのかという点については、後述する(2)以降の方式と併用されることもある。
この方式だと、依頼元からすれば窓口が明確であることや、依頼元の事業特性に応じた法務サービスの提供が高度化するという利点がある。他方、他の依頼元を担当する他の法務組織とで同様の問題が怒っている場合に、企業グループとして歩調を揃えるためには、別途何らかの横串を刺す仕組みの構築が必要となる。また、法務担当者が蛸壺化してしまう弊もあり得る。自分の担当案件ではないと依頼を他の法務担当者に振ることが通常化してくると、依頼部門から見た法務部門への信頼感が揺らぐ(親身になって相談せずに、官僚的に担当をたらいまわししていると見える)可能性もあるだろう。
(2) 案件ごとに割り当てる
法務組織の中の管理職等が、一旦担当分野の全件を見たうえで、適当な担当者に割り振るという方式。管理職等がアドホックに割り当てるということは、担当者の公平感や管理職等の負担からあまり採用されておらず、一定の基準を設けている場合が多いのではないかと思う。法務内のユニットが相当程度小さくなれば(3名~4名程度)、割り当てということではなく、ユニット内で何となく決まることもあるだろう。
(3) 依頼者が指名する
いわゆる「ご指名制」。担当者が法務の○○さんに相談したいと直接連絡してくる場合。企業と外部弁護士との間ではよくあるが、上記の(1)であらかじめ担当部門が決まっている場合には、違う部門の相談を受け付けることができるかは、ユニットどうしの壁の高さによる。この方式だと、人気のある法務担当者と、そうでない法務担当者との差が生じたときの、双方の不公平感をどう解消していくか、という課題がある。また、新規に法務部門に参加した担当者は、依頼部門にどう認知してもらうか、という課題もある。(飲み会したり、依頼部門に御用聞きに行ったりする顧客探索活動をするのであろうか。)
(4) 担当者が依頼案件を選択する
法務内のユニットの新規担当受付案件を一旦リスト化して、そこから、法務担当者が自分のやりたい案件をやっていく方式。これだと、不人気でいつまでたっても在庫のままの未配転案件が残るということをどうするのか、という問題がある。一旦希望者が案件を取った後、管理職等が法務担当者ごとの余力を見て(2)方式で割り当てる、といった組み合わせで使われることになるのだろうか。
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