« 外国法を準拠法とする契約書のレビューを企業内法務のみで完結することについて #企業法務 | Main | グレーゾーンに対して法務が取るべき対応は? #萌渋スペース »

08/12/2022

経過規定と付き合う #企業法務

#萌渋スペース なる、ツイッター上の公開おしゃべりに、萌声先生こと @dtk1970 さんと、渋声先生こと @ottokumattaさんとの絡みに乱入している。いつもdtk先生が、スペース終了後のブログ投稿の初校を公開されて、それに対する私の感想をまとめて書いて、それを3人で脱線も含みながらやり取りをするという準備(通称:ブルペン)をしているが、今回は、10回目ということで趣向を変え、私が先に初校を書くということになった。

先日、テーマを決めてから10日くらいかけてうんうんと初校をひねり出したのだが、それを受けてdtk先生が相当悩まれてしまったようで(すまんこってす)、公開投球練習ならぬ#裏萌渋 をやった。先生まだしばらく悩まれるようなので、もうちょっと短い話題で、お詫びがてら場つなぎをしておこうと思う。

内閣法制局が関与する内閣提出法案、いわゆる閣法には、国民の権利を制限し、義務を創出する法改正は、遡及して適用しないという原則がある。例えば、私の両親は運転免許証をもう返納してしまったが、返納前は、運転したこともない2輪の運転ができるとあった。50年以上前には、普通運転免許を取得すると、自動二輪の運転ができたのだが、あるとき以降、自動二輪の免許が独立したものの、それ以前に取得した免許では、自動二輪の運転できる免許を剥奪できないということで、そうなっていると理解している。

そのため、法律の附則には、「○○は、なお従前の例による」という規定が入っていることが通例[1]である。

従って、法改正前の規律は、改正法が施行されても、長く実効性を保つことになる。有名なのが借地借家法で、この法律は従来の借地法、借家法を全面改正して199281日から施行されたが、更新など重要な改正点については、「なお従前の例による」という附則が定められた。そのため、法律施行から30年もたつが、いまだに旧借地法に基づく借地権が多く残存しており、(ちょっと厚めの)六法にも、旧借地法・旧借家法が所収されていたり、新版注釈民法にも旧法の解説が併記されていたりする。

また、債権法改正でも、原則は法改正施行前に成立した契約には新法の効力が及ばないことになり、旧法時代の売買契約に基づく瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わるということはない。

こういう有名な法改正だと、旧法の解釈も比較的入手が容易なのであるが、問題は、取締法規やマイナーな法改正の場合であって、旧法時代の解釈基準は、法改正とともに入手が困難になるということである。昨今流行りの法律書籍閲覧サービスでも、旧法の解説書が出てくるということはまずない。法務部の書籍コーナーは、リモートワークの推進やフリーアドレス制、ペーパーレスの推進などで狭くなる一方である。よく使う、現在有効な法律についての書籍だけを残し、改正された法律の解説書なんて言うのは、わかっている人がいなければ真っ先に捨てられる運命である。

また、取締法規の場合、当局自体が旧法時代の解釈が分からなくなっていることもある。税務・戸籍・登記などのようにそれなりに専門スタッフが長期間関わる領域であればともかく、最近は大きな法改正を弁護士など任期付職員に担当させることも多い。法改正が成れば任期付職員は去る。過去のガイドライン、マニュアルももはや掲示されなくなる。過去どうだったかということを復元するためには、自分で保管して防衛するほかない[2]のであるが、それもままならぬという難しい状況に陥ってしまう。

例えば、改正前に法令に明記されていない具体的な判断基準を通達やガイドラインの形で当局が示していたが、あまりに厳格であるとの業界からのロビイングが実り、より柔軟な形での法改正がなされた、という場合、改正法施行後は、柔軟な処理が合法的にできる一方で、「なお従前の例による」とされた改正前の行為については、いつまでも厳格な処理をしないと法令違反の虞がなくならない。したがって、企業内法務としては、ダブルスタンダードで対処するか、あまりにコストがかかる場合には、法改正されたが、社内ルールは緩和しないという、改正された意味がない対応になることもある。

逆に、改正前は比較的自由にできていた行為が、法改正により厳格な規制に服した、という場合、過去の行為が(明確な法令のない)コンプライアンス上認容するのか、という課題を検討しないといけなくなる。しかし、相手があることなので自社だけでは対応できず、変えられなければ現行法上違法な行為を許容するという、これもまた難しい判断を迫られることになる。

こういう微妙な解釈は、大体の場合、事業担当者にも経営者にもなかなか理解されない、いいのかダメなのかはっきりさせろ、という圧力に企業内法務はどうするか?

場つなぎ記事なので、ボールだけ投げてこの辺で。

 

[1] 例外もある。労働契約法は、新規立法時の附則に「従前の例による」とは規定していない。したがって、労働契約法施行前に締結された労働契約においても、労働契約法が適用されることになる。

[2] このあたり、汎用的なスキルが求められる外部法律事務所にも資料がない(株式関係とか金融関係は比較的保管してある印象はある)こともあり、企業内で防衛していく他ない。

« 外国法を準拠法とする契約書のレビューを企業内法務のみで完結することについて #企業法務 | Main | グレーゾーンに対して法務が取るべき対応は? #萌渋スペース »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

« 外国法を準拠法とする契約書のレビューを企業内法務のみで完結することについて #企業法務 | Main | グレーゾーンに対して法務が取るべき対応は? #萌渋スペース »