法務が関与する社内研修について #企業法務 #萌渋スペース
毎度おなじみ #萌渋スペース 連動投稿となります。
スペースの開催頻度が、どんどん空いて、月1ベースくらいになってしまっておりますが、くまった先生とdtk先生との間では、結構ひんぱんに企画の意見交換をしております。
大体くまった先生が企業法務に携わっている弁護士さんや企業内法務担当者に役に立ちそうな題材を提案してきます。これに対して、dtk先生と私で、話せそうな題材か、揉みます。
- そもそも何を話すか思い当たらないもの(あまりない)
- 話すと現業または過去の実体験に触れざるを得なくなり、差しさわりのあるもの(そこそこある)
- 特定層向け過ぎて、当人以外は盛り上がらなそうなもの
- 可燃性が高く、剛速球どころか暴投や乱闘試合になってしまいそうなもの
は、没ということで、企画会議は盛り上がるものの皆さんにお届けできる内容になるまでお時間をいただいており心苦しい限りです。(企画として煮詰まらないけど話しても面白そうな内容は、ときどきゲリラ的に#裏萌渋 として話すこともあります。)
それでは、今回のお題は「法務研修」ということでございます。
1.対象
dtk先生は「企業内法務系の部署が主催する法務系の研修」とされたが、ここでは、もう少し拡げて、「企業内で開催される法務系の研修」ということにしたい。
役員向けに経営企画部等が企画するコーポレートガバナンスやコンプライアンスの研修、人事部が主催するハラスメントについての研修で労務系弁護士に講師を頼む場合なども、法務組織が関与しないとはいえ、法務研修の検討から外す必要はないのではないか。そして、これから述べる各項目についても、かなりの程度あてはまるだろうと考えられるからである。ただし、企業外の研修に参加してもらうというのは、あまりにもいろいろありすぎるので、ここでの検討からは除いておく。
このような研修に対し、企業内法務組織がどのように関与していくのか。
主催者は誰か。法務組織が自ら主催する研修も一定程度あるが、事業部や事業本部内の中間的管理組織が主催する研修に法務が呼ばれて(あるいは講師の紹介を求められて)という形で関与する場合も多い。たとえば、事業部門で用いられる契約雛型の条項解説であれば、事業部門主催ということもあるし、法務とコンプライアンスとが別組織ならばコンプライアンス研修はコンプライアンス統括部門が主催することもあろう。企業によっては、法務主催の研修よりは他部門主催の方が主流ということもある。主催者が誰か、という問題は、研修のテーマと企業内の組織分掌に密接に関係する。
2.目的・対象
dtk先生が指摘するように、研修の目的がやること自体である場合と、何らかの知識・技術の伝達・教育にある場合と2種類ある。前者は、研修をすることにより、企業や受講者を守るという、いわば盾の役目を持つのに対し、後者は、研修によって得た知見を、受講者が身に着けることによって、研修者自身、ひいては企業としての力を強化するという、鉾というか武器の役目を果たすことになる。どういうものが盾で、どういうものが鉾かということについては、dtk先生のブログにお書きになっているとおり。
盾型の研修の場合、受講者の保護というのは、受講した人を受講しなかった人から区別して受講者が保護されるという限度においてであって、究極的には企業防衛が個々の受講者の保護に優先する。コンプライアンス違反をしでかした人の処分に当たって、コンプライアンス研修を受講していたからと言って罪一等を減ずるということはない。それどころか、研修も受けていたのにこんなことをやってしまって破廉恥という評価すら受けることもある。会社はちゃんと態勢を整備していたんですけどねーといういわば「言い訳」に研修が利用されることになる。そのため、個々の受講者から見れば、その欺瞞性から、中々モチベーションが保てないということになり、いかに主体的に研修に参加してもらうかが、研修企画者の悩みどころとなる。
これに対し、鉾(武器)型の研修は、まずもって受講者の力となり、そこから間接的に組織としてのナレッジにつながるということが大半だろう。他方、組織構成員としての能力の平準化というか確保のためであれば、組織目標が先行することもある。例えば、新入社員研修(この中には盾型の研修も含まれるが)や、一定の組織(法務組織を含む)に新しく入った人向けの研修などがこれにあたる。一種のイニシエーションとしての機能を果たす訳である。受講者自身のスキルアップの研修であれば、受講者のモチベーションと能力(と予算)とに応じて、いくらでも意欲の高い参加は期待できるはずだし、何なら、転職しても研修の成果が個人に帰属するということもあるが、イニシエーション型の場合は、盾型の研修に近く、個人のモチベーションを維持させて組織への貢献をさせる必要が企画者にあることになる。もっとも、イニシエーションへの参加意欲が低ければ、評価に響くという程度において、受講者に参加を強制させることはできると思われる。(この点は盾型の研修でも同様だが、盾型の場合、参加しなければマイナスという評価になるのに対し、イニシエーションの場合はプラスにならないという評価になるかもしれない。)
以上の観点とは別に、研修には、受講者側の意識や知識水準がどうなっているのかを知るという目的がある場合もある。また、研修後の質問を通して、研修に関連する領域についての研修部門の実態、問題点を把握するという効果があることもある。更には、法務組織が研修を企画することにより、法務組織のプレゼンスが高まるという副次的効果も存在する(そして、それらの効果が結構大事だったりする。)。
3.内容・形態
何を研修の内容とするかということについても、dtk先生のブログに書かれたことにほぼ尽きる。1点だけ、研修内容と受講が強制か任意かということとの関連について、指摘することにしたい。
盾型の研修の場合、基本は研修が強制されることが多い。それぞれの対象者ごとに、こういう研修を受けさせたということ自体が、企業としての態勢を整備したということになるからである。
鉾型の場合は、組織力強化のための研修、イニシエーションとしての研修であれば、研修が強制されることになる。他方、担当者としてのスキルアップであれば、より、任意での参加になじむことになろう。
どういう形態で研修をするか、という点については、コロナ禍でのリモートワークの普及に伴い、従来に増して多様となってきたように思われる。リアルタイムでの研修でも会場参加、オンラインでの参加のいずれもあるので、企画者は、それぞれのプロコンを分析してより研修成果の上がる形式を選択していくことになる。また、リアルタイムでない場合でも、収録を聴講する形、e-Learningといった何らかの形で受講者に参加してもらうものもあるし、もっと受動的に、研修資料を共有するとか社内報社内ポータルなどでの注意喚起に留めるとかの方法もある。最後の方法は、強制参加ではないことになるが、盾型研修の場合、それでいいのか、よりアリバイだけになってしまって、結局態勢整備とも評価されないのではないか、という点から範囲を見極めておく必要が企画者にある。
また、講義形式として一方的な講義で済ますか、質問や質疑などを中心とした双方向型とするかということも、企画にあたって検討する必要がある。なかなか盾型の場合で双方向型というのは難しそうではある。また、日本人(というか、日本の企業文化上)の特性として、受講者が積極的に質問をするというのには抵抗があるので、双方向型の研修を企画さうる際には、どのようにして受講者からの主体的参加を促すかという点について、講師が頭を絞ることになろう。
4.講師
講師についてもdtk先生の分析に付け加えることはあまりない。敢えて追加で言うとすれば、講師を誰にするのか、という点については、法務のその企業における立ち位置が強く反映する点であろうか。
例えば、役員研修に法務組織の誰かが講師をするかどうかという点については、「なんで俺たちがこいつらから教わらなくてはならないんだ?」というメンタリティの経営陣であれば、おのずと外部のそれなりの先生を講師に据えないと差し障りが出ることが想定されるし、一般社員向けでも、研修のテーマについて法務の専門性が一定のリスペクトを受けていないのであれば、外部の講師を呼んでくることも検討しなければならない。逆に、研修を受ける側(役員、管理職、一般社員)が、この人(たち)から教わってもいいと思われている、それどころか、一定の敬意を払われているのであれば、(当然研修内容についてよく知っていることを前提として)社内講師を法務が行うことが多いだろう。これは、冒頭述べた、他部門が企画する法務に関連する内容の研修でも当てはまる。
余談
研修資料をどうするか。
先日外部研修で1時間でパワーポイント70枚というのがあって、これ終わるのかと訝っていたら、飛ばす訳でも、高速で読み上げるわけでもなく自然に終わって舌を巻いたものがあった。かと思うと、なんだか題名だけのイメージ先行の資料が送られてきて、こりゃ聞かないと分からないな、と思って研修に出たところ、資料のままのプレゼンだったとか、偉い先生とか学者の資料は演題しか書いていなくてこれは資料渡す意味があるんだろうかと思ったりしたとか、まあいろいろある。研修資料については、研修そのものというよりはプレゼンテーションの技法ではないかと思っている。
内職、居眠り。
リモート(画面オフの場合はことさら)の場合、他の作業をしていることは気づかれにくいし、その場でメモを取るなどしない限り、聞き流して研修効果がリアルに比べて上がらないような感覚がある。研修の効果測定をして何とか内職や居眠りを防止する例もあるが、果たして効果測定すること自体にどれだけの意味があるかは、ここまで述べてきた研修のタイプごとに個別に検討していくことだろう。
更に余談の余談。
今まで書いてきたこととは全く別に、ジョブ型社員が入社してきたときに、自社の法務色に染めて組織への一体性を確保するための法務組織内研修というものがある。これについては、組織運営論にもなるのでここではこれ以上は触れないが、結構大事なことなのである。
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