大法務と小法務
この投稿は、法務系Advent Calendar 2015」の参加エントリーです。
こんばんは。皆様聖夜を如何にお過ごしでせうか。酔つた勢ひで投稿することをお赦し頂き度。
法律を一定程度学んだ人が企業法務の中の人になったとして一番大変なのは、その企業のビジネスを理解しないでアドバイスはできない、ということではないかと思います。ビジネスへの理解なく法律知識だけでこなすことを、ここではとりあえず小法務ということにしましょう。
(逆に、企業の他部門から法務知識なく法務部門に異動してきた場合は、小法務以前で、未だ入門前ということですので、まずは法律知識を吸収せねばなりませぬ。)
だんだん当該業界のビジネスも理解してきて、単なる法律知識を超えた生きたアドバイスができてきて、ようやく法務パーソンとして一人前になります。ビジネスも法務もわかってアドバイスをしていくことを、ここでは大法務と呼ぶことにしましょう。
外部の弁護士に比べて企業内法務のアドバンテージは大法務としての業務ができることではないかと思います。その企業独特の歴史、社内人脈、戦略を踏まえたアドバイスは、中の人でしか通常はできない醍醐味と言えるでしょう。
しかし長く法務部門にいると逆に大法務の弊害が出てくるように思います。特に、M&Aや不祥事対応などめったに起こらない修羅場を何度かくぐり抜けると、
1 面白い案件しか興味を持たなくなる。
2「尻の青い」事業部門の若僧に仕事とはこういうもんじゃないんだと説教を垂れる。
3 経営者が能天気に見え、こんな大変なのにわかっていないと愚痴る。
ようになることがあります。
ところが、そう思っているのは本人だけで、
1 上司からは仕事を選り好みしていると見え、
2 事業部門の若手からはうるさいおじさん(おばさん)として敬遠され
3 経営者からは偉そうにして俺たちが判断すべきことに口出ししやがってと頼りにされない
という陥穽に嵌っているのです。
やはり、法務が頼りにされるのは、業務経験やビジネスセンスではなくて、適切なリーガルアドバイスなのであって、ビジネスを理解していることは必要条件であっても、深い法的洞察力に満ちた助言ができるかどうかが、影響力の源泉ではないかと思うのです。
大法務のスキルを身につけた法務パーソンは、敢えて小法務に回帰するべきではないでしょうか。
…という話をしばらく前に某研究会でしたのですが、弁護士の方からいくつか質問がありました。
1つ目として、私の属する企業の法務部門の仕事のやり方を良く知っている弁護士さんから、「でも、御社の法務部門の強さは、単なる法務問題を超えた経営まで立ち入ったアドバイスをしていることではないでしょうか。」というものでした。
うん、それはそうだったのですが、大法務のやり方だとどうしても限界があるというのが、ここ数年の私の考えていることでして、事業部門からは自分たちのことをちゃんと理解して受け入れてくれて、その上で法務に限定してアドバイスしてくれることが一番評価されることを痛感しているというのが当面の答えになります。これは、事業部門にとって都合のいい答えを言うということではなくて、時には耳の痛いアドバイスかもしれませんが、でも耳を傾けざるをえない、というクオリティのアドバイスができることが理想です。したがって、実態としてはビジネスの領域に立ち入らざるを得ないのですが、なお1歩自制することが、より説得力を持つことになる、小法務というのはある状態を指すのではなくて、スタンスなんだ、ということになります。
もう1つの質問として、企業の中の人として、事業部門に力がないときは助けないんですかというものがありました。あるいは、経営者が間違っているときは諌めないんですかという質問もあると思います。
この質問に対する確定した答えを持ち合わせていないのですが、今までの経験では、事業部門がキャパシティオーバーであるときに法務がビジネスの領域に乗り出して解決することは、一時的には可能であっても、持続しない、したがって、債権回収とか事業撤退という出口が比較的近くにある仕事では有用ではあるものの、新規事業の場合は、法務が継続してメンテナンスするということは期待できない以上、手を差し伸べるべきではないのではないかと思っています。
経営者が腐っているときはどうするのか、これはその人の価値観そのものではないかと思います。沈没船から逃げるネズミになるか、船と運命を共にするか、どちらがロジカルに優れているかということではないと思います。(ただ、以前の上司が常々言っていたことですが、サラリーマンは失敗しても命や全財産が取られるわけではない、ということを再確認しておきたいと思います。)
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