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12/04/2019

リーガルテックってどうよ?(契約レビュー編)

むくり。

12月になると、LegalACのために、埃まみれのこのブログを棚から出すことになります。

本番の前に、ウォーミングアップということで、最近流行りというリーガルテックのうち、何となく耳目を集める飛び道具っぽい、AIによる契約書レビューについて、簡単に触れておきたいと思います。

私の勤務先では、しばらく前から契約書をAIでレビューしてくれるサービスを導入しています。レビューは、ブラウザからサービスサイトにログインし、ファイル(Wordが標準ですが、最近はPDFをそのままレビューできるようになっているものもあります)をアップロードすると、ほぼ一瞬、遅くても数秒でレビューが完了します※ 。これに加えて、Wordのアドインとして、ファイル編集中に、契約書全体をレビューしたり、条項ごとに参考条項を吹き出しの形で出してくれることもできます。

 

もっとも、サービス導入後しばらくした頃、レビューをしようとしても砂時計アイコンが出たまま固まってしまうことが度々ありました。あとで聞くと、他のクライアントが大量の契約書をアップロードしたため、サーバーがオーバーしてしまったとのことでした。一度でもこのように使えない状況が出ますと、熱心な愛好家とか、業務命令で使わざるを得ない人はともかく、職場で導入されたから使ってみようかな、という大多数のユーザーにとっては、二度と使わないようになってしまうと思います。

 

レビューできる契約書の類型は、サービスごとに若干の差異はあるかと思いますが、NDAと業務委託契約はだいたいどのサービスでも対応していると思います。NDAは通常のものであれば、一通りのレビューはできるように思いますが、単なるNDAを超えた意味合いをもたせたいときにまで気の利いたレビューをしてくれるわけではありません。業務委託契約は、極めて汎用的なレビューしか今のところできないので、一般条項のチェックとか、あるべき規定の有無のチェック程度だと思います。当然ながら、業務仕様はレビューの精度が低いか、対象外となります。

 

なお、あらかじめ依頼者のポリシーを入れておくことができるサービスもあります。特定の規定はなくてもよいとか、特定の条項は認めないとか、そういうことです。逆に、レビュー

傾向から、ポリシーを抽出するサービスもあるようですが、これはかなりの数を読み込ませないとできないのではないかと思います。また、将来的には相手の属性を見てレビューを変えるということも想定されていますが、現時点でそれを実装しているサービスはまだあまりないと思います。

 

レビューをかけますと、思ったよりも多くの指摘が出て来たり、特定の条項が入っているのに、入れろというコメントが出てくることがあります。これらのコメントを取捨選択するスキルがなければレビューサービスは使えないということになります。ですから、慣れた法務担当者がレビューするよりも結局時間がかかることが多いわりには、慣れた担当者でないと使いこなせない。結局慣れた人の抜け漏れチェックでしか使えないというのが現状ではないかと思います。あるリーガルテック導入の先進企業では、若手には使わせないという噂を先日聞きましたが、それもまた無理のないところかと。

 

むしろ自分として重宝しているのは、自社の締結済み(よって、許容可能な)契約書を読み込ませていって、ドラフティングをするときに、条項ごとに過去の締結例を見ながら作成するという使い方です。レビューというよりは、条項ごとのデータベースとして活用するわけです。これはサービスによって、自社の締結例を読み込ませることができるのか、汎用的な条項例しかないのか大きく違うところだと思うので、導入にあたっては検討されたほうがよいかと思います。

 

自社の締結例を読み込ませるとノウハウが流出しないか、ということは心配になりますが、一応ベンダーはそれはしない、といってくれているのを信用することにしました。我が国では契約条項はあまり外に出したがりませんが、外国では条項自体は開示の対象となり、法務関係者の共通資産としているところもありますので、心配な方は個人情報や金額などの契約条件を削除したものをレビューすればよろしいのではないかと思います。

 

料金ですが、これはサービス内容、ユーザ数、セキュリティなどでかなりの差があり、フルサービスで利用者数が相当の数になると、かなりの金額になる一方、少人数でお試し的に行うことができる極めて安価な料金を提示しているところもあります。

一定規模以上の企業であれば、システム部門によるセキュリティチェックもあり、あるトリガーで料金が急に上がることもあるので注意が必要です(ベンダーも厳重なセキュリティを要求する大企業を収益源として、料金体系を考えている場合もあります。)。

また、安価な場合クレジットカード払いとしているベンダーがありますが、クレジットカード決済を社員個人に認めさせない会社もありますので、どのような支払方法があるかでだいぶ参入の容易さが変わると思います。一般には、安価でも月額料金となると、スポットよりもハードルは高いし、個人が勝手にサービスを使ってそれを事後精算するというやり方も、そもそもセキュリティ上アクセスできないという可能性を措いておいたとしても、認められない可能性が高くなると思います。

 

以上色々申し上げましたが、ほんの数年前、初めてサービスを見たときに比べ、月単位で進歩しているのがこの領域で、使えなくても要望を出していけば叶うことも多く、私としては暖かく見守って、一緒に育てていきたいと思っています。周りを見ていると、トライアルまでは導入して、やめてしまうという企業が(圧倒的に)多いと感じているのですが、勿体無いと思うんですよね。

 

 

システムのレビューだけでなく、弁護士等による人力のレビューを補完的に行ったり、場合によっては法務相談を受け付けるようなサービスもあります。これはむしろ、法務部門のない新興・小規模の企業や、従来の顧問契約の代替的サービスに近いものと思います。

 

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