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07/28/2022

あざとい法務・あざとかわいい法務 #萌渋スペース

少し前の話だが、

  • プレスリリースに載る案件で法務ががんばっていたと認知されることで、経営陣からの信頼を得ることができ、給与交渉の材料になる
  • 会社を背負って仕事をする人に恩を売る
  • 1件1件すべて丁寧にやるということではなく、ポイントを見定めてしたたかに仕事を取ってくる

なる所論(1)に接した。まぁあざといなあ、という身も蓋もない感想を持ったが、これを素材にもう少し敷衍して、評価される仕事をするために、ということを論じてみることにしたい。

誰による評価なのか

所論は給与に直結する評価としているので、一義的には組織内における考課者による評価を想定しているように読める。他方、「法務領域のスキルや知識を生かして給与を最大化するには営業利益率の高い業界を選ぶ」という話もしているので、転職時における採用権限がある人による評価のようにも読める。萌声先生の記事も、「履歴書の華」とあるように、転職時を念頭に置きつつ、現職内の議論も併せて検討している。

評価という点では、組織内の考課者による評価と、転職時の面接官による評価とは全く別のものだと考えるので、それぞれ区別して論じておくこととしたい。

 

組織内での評価

組織内の人事考課においては、基本的には賞与に反映する短期的評価と、昇給・昇格に反映する中長期的評価との2種類の評価があるのが通例である。(翌年の年俸に反映させるだけの単一評価の場合や、昇給・昇格が殆どなく、賞与のみの評価という事例もあるにはある。)

そして、考課者自身がプレイング・マネージャーであるような小規模法務組織を除くと、法務担当者自身がどれだけ法的知識を取得しているか、契約書レビュー、法務相談、外部弁護士とのコミュニケーションなどの法務に不可欠な技能をどれだけ会得しているかという点について、考課者自身が直接確認する機会は、驚くほど少ない。これらの基礎的知識・技法が法務担当者としての不可欠な能力の一つであることは、言うを俟たないものの、それ自身を考課者が直接見ているわけではないのである。

それでは、考課者は何を見て日常的な知識・技法を評価しているのかと言えば、派手な案件に関わったとか、声が大きいとかそういうことではなくて、社内のクライアントからの反響が一番大きい (※2) 。あいつよくやってくれた、ありがとう、と社内の相談先からそこはかとなく伝わる声が、結局、人事部にも伝わってくるのである。そのうえで、考課者が自分の部下の考課を人事部や法務専門ではない担当役員とかに説得する方便として、あの案件やりましたからという用い方をするのである。

地道に勉強して、目の前のクライアントが満足するような品質の業務を愚直に遂行していくことが、評価を上げるための必要条件であり、それを全社において定着させるための十分条件として、耳目を集める案件に関与していたことを説得材料に用いるのである。なお、この場合は、短期的な成果として賞与査定には直結しやすいが、被考課者の基礎的能力の反映である昇給・昇格査定に対しては、直接的な説得材料にはなりにくい。その意味でも、プレスリリースに載る案件を担当していたということが、給与のベースアップになるという物言いは、毎年年俸交渉をするなどのいわば特殊な環境を前提にしているのではないか(企業としては定年まで勤務することを前提とする正社員の査定での議論ではないのではないか)という感想を持たざるを得ない(※3)。

大体、プレスリリースは、「作者のない、無人格的な文章」をもって良しとされるのであって、広報部長とか、法務担当者の肉声だとか個性だとかが迸るようであれば、それはリスクマネジメントとしてどうなのか、ということになる(※4)。そういう無個性な制作物に関与しているというのは、いわば、映画のエンディングクレジットで、出演俳優が流れて画面が暗転し、小さい字で延々とスタッフの名前が流れている中の一人にすぎないということであって、それだけでその人の評価が高くなるという代物ではない。もちろん、担当者個人としては、ダラダラ流れるクレジットの中に自分の名前を見つけて感無量になるというのはわかるものの、自分が思っているほど他人から見てすごいことではないと思っている。

あと、特に昇給・昇格査定で給与が劇的に上がるというのは、特にJTCの場合、あまり期待できない。同一年次の法務以外も含めた職層の一定のレンジの範囲に留まることがほとんどだろう。劇的な向上だけを狙うなら転職も視野に入れておくことになる。

 

転職時の評価

転職時の採用選考においては、社内の考課と異なり、日常的業務を見たり、顧客層の反応を見たりすることはできず、応募者のプレゼンテーションによるところが多いから、ニュースリリースで公知の案件を担当していたとか、年間○○件の案件を扱い、○○件の契約を審査していたということから、その背後にある能力を推察してもらうという手法が採られることも少なくない(※5)。

しかしこれはあくまでも能力を測るための推定であって、プレスリリースのされた案件を多くやっていたからということだけで採用ということではないと思う。それどころか、逆に面接官がプレスリリースによく関与していたりしていた場合には、むしろ評価が厳しく見る可能性すらある(※6)。

また、キラキラしたトロフィーディールばかりやっていましたとアピールされた場合、それではなぜ転職するのだろうという質問がなされることは覚悟しないといけない。面接官が納得できる答えができなければ、せいぜい「エンディングロールの1名」という印象しか与えないだろう(※7)。

それでは、日常の努力と実力とを、短時間の面接でどう表現できるかが問題なのだが、これに対する明確な回答を筆者は持ち合わせていない。強いて言えば、日常の話を聞く力と自分の考えを説得する力とを使って、内面の実力をどう仄めかしていくか、ということだろうか。

 

まとめ:評価され・やり甲斐のある仕事をするためには

愚直だが、知識をインプットし、コミュニケーション(説得)能力を磨くこと。これが必要条件である。

そのうえで、あざといという印象を与えない程度に、基礎的な能力があることや目立つ案件にも関与していることを考課者や面接官にうまく示していくことが十分条件である。

内面からあふれ出る魅力がなければ、あざといことは悪印象でしかない。魅力+あざといという「あざとかわいい」人になって初めて評価がついてくるのだろう。

 

(※1) 所論と称して原典の引用をせず、その批判だけ展開するのは、故平野龍一先生の刑法の文献で見た記憶があるので一度やってみたかった。匿名の戯言なので許して。なお、自分が平野先生を直接見たのは、本郷のルオーの2階で、誰かと話していて、いきなり大きな声で、NO!と叫ぶおじさんがいて振り返ると、写真でしか見たことがない平野先生だった、という1回のみである。

(※2) 二次元妻帯者の大先生がおっしゃるように、ちょこっとした報告の中に、日常的な分析能力を垣間見せるという技法は、相当程度有効だと考える。

(※3)そう言っているお前の所属する環境もまた特殊ではないか、という批判については甘んじて受け入れる。

(※4) クソIRオブザイヤーの「筆者」が面接に来てカミングアウトしたらどうしよう(所論は「プレスリリースに載るような案件を担当する」であってプレスリリースを担当するという訳ではないことは念のため留意)。

(※5) 中途採用時に資格者が中心になるのも、採用試験ではなかなか測りがたい能力の一定の推定が働きやすく、社内でも説明しやすいからというのが一つの理由だと思っている。

(※6) 自分が経験した事例で言うと、ある立法時にパブリック・コメント出しましたと自信たっぷりに話された応募者の方がいたが、どのテーマで誰名義で出しましたかと聞いてその答えで能力を察したということがあった。

(※7) 不祥事で炎上している企業のリリース案件やっていましたというアピールが果たして転職業界で響くんだろうか(と某方面を見る)。

 

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