企業から見た弁護士への依頼についての留意点 #萌渋スペース
#萌渋スペース の @くまった先生 の無理難題三題噺も取り敢えず打ち止めのはずで、お題は「こんな弁護士は困る」ということであります。
ここで言っている「弁護士」が社内弁護士(インハウス)を含む存在なのか、そもそも法務組織(あるいは担当者)には資格者たるインハウスしかいない企業の場合、事業部門から見たこんなインハウスは困る、ということまで含むのであれば、それはちょっと私の置かれた環境からは適任とは思われず、また、法務組織長として、自分の部下のインハウスについて述べるのも、明らかに部下複数からここの存在が知られている身としては、別の機会に譲ります。
ということで、依頼者である法務部門から見た、外部弁護士に特化して書いていったら、もろもろ毒が噴出し、あまりにも外に出せないものになってしまい、いわゆるブルペンでも「これはちょっと」ということになりました。そこで、@くまった先生からのお題に直接対応しない形ですが、大幅に構成を変えて、再構成しました。この間、原稿をずいぶん前に完成させて長くお待たせした@dtk先生、@くまった先生にはお詫び申し上げます。なお、以前こちらでも関連していることを書いているので、そちらも参考にしていただければと思います。
1. インプットを工夫する
前にどこかで言ったような気がするのですが、外部弁護士は企業から見て一種の函数と考えて、望ましいアウトプットのためにどういうインプットを与えたらよいのか、ということを考えることが、依頼者側に必要になってきます。アウトプットはある程度インプット次第、ということになりますと、どのようなインプットをしたのか、という責任は、まずもって依頼した側、特に法務担当者にあるわけ[1]で、そのような責任が取れなければ、言い換えれば、腹が座っていなければ、外部弁護士さんは踏み込んだ見解[2]は出してくれません。
2. 相互の信頼感を醸成する
まずはここが出発点。外部弁護士さんが、この依頼者からは言質をとられるという警戒感を持ってしまうようになれば、保守的で安全なアドバイスしかしなくなります。他方、依頼側からみて、この弁護士さんは保身に走っているな、とか、タイムチャージ稼ぎで無駄な作業ばかりしているな、と見ている弁護士には、大事なことは相談しなくなります。
踏み込んだアドバイス[3]をしても、それをきちんと受け止めてくれる依頼者だ、という安心感を外部弁護士さんに持ってもらうこと、自社の器量にふさわしい落としどころ[4]を踏まえたアドバイスをしてくれる弁護士さんだ、という信頼感を依頼者に持ってもらうこと、そして、相互に敬意を持っていることがすべての土台となります。
3. リスクを取れるレベル感を合わせる
そのような相互信頼を築く第 1 歩として、自社がどのような沿革・企業理念を持っているのか、どういうリスクには強くてどういうリスクには敏感なのか、ということを、過去のディールでの事例を話すなどして、外部弁護士さんにはよく理解してもらうことがあります。逆に外部弁護士の立場からは、依頼者のやり方が自社固有の特殊なやり方かどうか、ということは、業務時間外にそれとなく聞かれないと言ってこないものです。そのために、依頼のための狭義の相談時間だけでなく、食事(飲み会)を一緒にするなどして、一定時間ゆっくりと話すようなことは、コロナ禍前は一定程度行われてきました[5]。
リスクのレベル感を合わせることで、依頼者にとっては無駄なアドバイスをしなくて済みますし、より焦点を絞った助言が可能になってくると思います。 また、企業側としても、より市場に理解できる取引姿勢や商品を提供することのヒントにもなると思います。
4. 顧問・依頼弁護士との業務外の付き合い
前述のように、自分が普段依頼関係がある・これから依頼をしようと考えている外部弁護士さんとの社外での付き合いに当たって、留意していることは、業務の中で直接伝えられなかったことや、聞きたかったことを率直にお話しようということです。おごったりおごられたり、ということはありますが、業務とのバランスを取ることもいつも心がけています。接待を受けて発注する、接待を受けてアドバイスに手心を加えるというのは、それが犯罪だとか社内規則に反するという以前に、業務自体の質を下げるから仕事の評価としてもどうかと思います。
弁護士とものすごく仲良くなって、夜な夜な飲みに行ったり、ゴルフ行ったり麻雀行ったり■■に行ったりとか、あるいは、勤務先の相談を超えて、企業と利益相反する個人相談[6]までしているとかの話を見聞きしたことがあります。担当者が、特定の弁護士さんを絶対視し過ぎて、健全な批判精神を失うのは、企業内法務としての責務を放棄していると思います。
5. アウトプットをどう得るか
弁護士さんの回答は、こういう前提だとこういう見解だが、留保事項がこれこれ、というフォーマットで出てくることが通例です。「お聞きした内容が、○○という事実であれば、違法の可能性があるが、実際の問題となるのは、□□が△△となったときであると思われる。」という文章だけ見て、これが危ないのか、危なくないのかを読み解くには、相応の熟練が(法的素養においても、その弁護士さんの文体や性格から真意を見抜く経験からも)必要となります。
また、未熟な法務機能の会社が、安易に複数の弁護士の見解を採って、判断しようとする場合がありますが、2つの法律事務所の見解が、一見真逆なような場合があります。これもよく見ると、前提事実と留保事項とが微妙に異なっているだけで、実質的には同じことを裏表から言ったに過ぎないという場合が往々にしてあります。
そこで、文言はともかく、実際のリスクはどうなんだ、という点については、更に掘り下げる必要が出てきます。こういう弁護士の見解の理解のために、一定の専門性が必要となるので、弁護士への依頼・相談は必ず法務組織を通す、という企業があります。(JTCやある程度規模のある会社の方がその傾向が強い[7]と思われます。)更に、顧問弁護士に相談するためには、一旦法務の管理職や果ては法務担当役員の決裁が要るという会社も聞いたことがあります。弁護士の相談に相談へのリテラシーのある法務担当者を関与させる、という考え方自身はある程度合理的だと思います[8]が、他方、法務部が特に顧問弁護士の側用人化し、顧問弁護士への敷居が高くなる一因ではないか、という声も聴くところです。
6. (顧問)弁護士への相談の敷居の高さ
さらに、弁護士さんの中には、自分は選ばれた、特別の人なんだ、という自負心を持った人が一定程度いるように思います。そして、気に入った人(往々にして頭のいい人)と、そうでない人とを露骨に差別[9]したり、依頼を受ける側という分を超えて、依頼者に注文をつけたりする人も、残念ながらいます。このような人に、側用人・幇間のような法務部長がついて、その人経由でないと相談できないとなったら、どうなるか。
また、(特にJTCの)担当者が担当者としていられる期間は短いのに、弁護士が弁護士として活躍できる期間は30年から長くて50年もあるという期間のずれが、この問題を更に複雑にしています。弁護士が若くて機動性にあふれ、才気渙発のころに担当者として付き合った会社の人が、課長となり、部長となり、役員になっても、弁護士は弁護士のままです。しかし、役員の部下、担当者からすれば、弁護士は役員と同じ高さの人なのですから、フラットに相談することはためらわれます。また、弁護士の中には、「私のカウンターパートは社長(役員)だけ」と、担当者からの相談を嫌がる方が一定数いることも、残念ながら事実です。そんな弁護士ばかりではなくて、担当者や新入社員にも丁寧に応じてくれる方もいらっしゃるのですが、どんなに弁護士が敷居を低くしても、弁護士事務所内でうまく世代交換ができなければ、どうしても敷居は高くなっていくことは避けられないように思われます。
7. 主と客とを間違わない
外部弁護士はあくまでも法律の専門家で、経営理念の体現者でも、事業責任を取ってくれる人でもありません。必要な検討項目を網羅しているかとか、手続きを履践しているかという点についてのアドバイスであればともかく、弁護士としての一線を越えたことを聞かれても、弁護士さんとしても対応に困るでしょうし、依頼者の判断に依拠すべき助言ということにはならないのではないでしょうか。この点、顧問弁護士とか付き合いが長いと、法律専門家を超えたアドバイスをされることはありますし、弁護士に法的見解を聞くというよりは、壁打ちの相手として、自分たちの考えを整理する助けをしてもらうという弁護士の利用法もあります。このような外部弁護士さんとの関係自体は否定しないし、うまくできればよいと思いますが、繰り返しになりますが、経営判断の根拠にはならず、判断の責任は依頼者自体にある[10]ということを強調しておきたいところです。
企業法務にとって、外部弁護士さんはあくまでも客であって、主は企業自体であることを常に忘れないことが企業側にとっても、弁護士側にとっても必要だと思います。
8. (依頼関係のない)弁護士との業務外の付き合い
最後に少し応用編。普段の業務でお願いしない弁護士さんと付き合うという話をします。
自分の所属する業種が特殊なのかもしれませんが、よくお客さんから「弁護士を紹介してくれ」と営業担当が言われることがあり、法務に顧問弁護士を紹介したいというお願いをされることがちょくちょくあります。しかし、顧問弁護士を紹介すると、潜在的に利益相反になる可能性があり、実際に過去、情に絆されて紹介したところ、紹介先が競合相手となってしまったということがあったことから、基本的にはお断りしています。
しかし、お客様の要望が強い場合や、変な弁護士がついて訳が分からなくなるよりも、定評のある弁護士さんに相談して、合理的な判断をしていただくということ望ましいということから、当社として利害関係はないけど、ある分野で定評のある弁護士さんは誰か、という引き出しを持っておいた方が、営業部門から法務部門への信頼感も上がります。
また、まったく土地勘のない新しい業務を行う際に、弁護士に相談したいというときに、従来の顧問弁護士ではらちが明かない[11]となれば、新しい領域に詳しい弁護士を開拓する必要があります。
そういうときのために、(今は)依頼することはないけれども、業務外での弁護士の付き合いを拡げていくというのも、企業内法務歴が長くなってきた者としては必要なのではないかと考えています[12]。
[1] 肝心な情報を与えずに得た弁護士の見解は、意思決定の根拠とならないばかりか、そのような前提事実の操作を行った依頼者の姿勢を強く非難する第三者委員会報告書は、しばしば目にするところです。
[2] なお、ごくごく少数の、特定企業と長年の付き合いのある弁護士さんですと、インプット自体を弁護士さんの方から操作してくることがあります。たとえば、「これは、当社だと過去からこういう処理をしてきたので」とか、「当社の経営陣はこういう考えをしない」ということを言われることがあります。
[3] 23年1月23日に公表されたKADOKAWA株式会社のガバナンス検証委員会の調査報告書(公表版)に、「このメモは、前提事実を特定して弁護士の法的意見を記載する法律意見書の形式は取っていないが(宛先、日付、弁護士名、照会事項、前提事実の記載がない)」という記載があります(57頁)。ここの、細かい形式にこだわり、敢えて調査報告書に記載するという点に、筆者は違和感を覚えました。調査委員会のメンバーである弁護士も、完全な様式を備えた法律意見書から、カジュアルな対面での口頭の回答まで、いろいろ使い分けているだろうに、そこを突いたら、自分たちの存在意義を否定することにならないだろうか、という観点です。
[4] ここでいう「落としどころ」は、適当な妥協点という意味では全くなく、事案の特性、事業環境、規制当局との関係、企業理念、沿革、経営者の資質、社内の組織力学その他の要因をすべて勘案した最適解、という意味で使っています。
[5] 業種によっては、業務関係の飲み会は汚職の温床となるとして厳しく制限しているとも聞いていますので、その場合は、より「健全」なお付き合いが求められます。例えば、工場とか現場を見学してもらうとか、企業側の窓口担当者以外のメンバーにもあってもらうとかの方法が考えられます。
[6] 部下/同僚にパワハラ・セクハラという通報をされてしまったので、そうでないという弁明書を見てもらえませんか、というお願いを顧問弁護士にしている法務部員とか。
[7] 他方、日本の金融機関は、事業部が直接弁護士にアクセスし、法務部は限定的な役割しかない場合が多いと思います。
[8] この、外部弁護士に相談するための特殊技能を備えた企業内法務担当者、というコンセプトは、inhouse counselとoutside lawyerしかおらず、inhouse counselがいなければ、ビジネスサイドが直接弁士に相談するアメリカから見たときにどう見えるのか、という点には興味があります。
[9] 担当者の電話やメールには返信しないのに、昔なじみの部長が連絡したらすぐ返信する弁護士とか、担当者には先生と呼ぶな、と強く言うのに、役員研修で社長から先生と呼ばれたら、何も言わないという弁護士とか。
[10] 法的見解でなくて事業判断も何も何でも顧問弁護士に聞きたがる担当者に対し、「じゃあ、お前は○○先生が■■■喰えと言ったら喰うのか」と激詰めしている元上司の姿が思い浮かびます。
[11] 高齢の顧問弁護士が、新規分野の返答を嫌って、アポイントを取らせてくれない、それでも顧問契約を終了できない、という悩みを聞いたことがあります。
[12] 更に言えば、なってほしくはないけれど、所属先企業で不祥事が発生し、調査委員会とか、独立第三者委員会とかを組成して調査を行わないと収拾しない、となったときに、一般的な評判だけを踏まえて第三者弁護士を選任した結果、さんざん蹂躙されて的外れの指摘(罵倒)をいただいたうえ、フィーだけたんまり取られる、というリスクを軽減するためにも、人となりを知っている弁護士さんを、いざというときにそれとなく推薦できるようにしておきたいという隠れた動機も、あったりします。
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