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07/13/2023

法律顧問って、何? #萌渋スペース

以前、「顧問弁護士に聞き難き問題次回 #萌渋スペース にて扱ふべし」とツイートしたところ、くまった先生が覚えておいてくださり、dtk先生が早速丁寧な分析をされました。これに加えることは、ほとんどないので、個々の事象を離れて、どうしてそういう風になるのか、ということを考えてみたいと思います。

dtk先生の指摘している法律顧問へ聞き難い理由を箇条書きに並べてみると、こういう感じ(適宜順番や表現は変えた)。

  1. 相談しようと思っていても会えない、会ってくれない
  2. 相談の実体に入るまで手間がかかりすぎる
  3. 手を動かさない、知識の更新がなされない
  4. 遅い、出来が悪い
  5. 社内の方向感と違う出力
  6. 相談に行った後の副作用が大きい(情報漏洩、社内で相談以上の大ごとになる)
  7. 報酬額に納得感がない

上記の問題点を整理してみると、アクセスの問題と、クオリティの問題とがある。

アクセスの問題。典型的なのは①で、忙しいからか、答えたくない[1]からかそもそも相談ができないということである。②は、アクセスの問題でもありクオリティの問題でもある。ちゃんと座が温まってくれれば、機嫌よく名回答をしていただけるが、そこに至るまでの準備が大変。相談のための資料ということだけでなくて、社内の誰から依頼するか、相談前に口添えをしてもらうかとか。相談後もお礼をキチンとしかるべき人からしないと後で不機嫌になることもあるので、フォローアップも重要である。こういう大先生に相談しようと思うと、担当者はますます気が重くなり、足が遠のくことになる。

クオリティの問題。②も一部含まれるが、③から⑦が主だったところ。

③について、昔は鋭かったのだろうが、知識のアップデートを怠ったおかげで、答えの品質が悪い。法律顧問以外のアドバイザーであれば、そういう人には相談しないで、よりクオリティの高いアドバイザーに変更するのが通常だが、なまじ顧問料を払っているために、そのようなロートルの弁護士に相談しなければならない羽目に陥る。これも、弁護士へのアクセスが難しかった時の名残りという点で、アクセス問題であるかもしれない。④は、もともと遅かったら顧問契約を結ぶということはあまりないので、主として加齢による体力、知力の衰えがスピードに影響しているということが多いだろう。

⑤と⑥は、顧問弁護士特有の問題かもしれない。なまじ社内とのつながりが多いゆえに、ぽろっと情報が洩れるとか、上の人や横の人に誤解を生むような事態になるとか、あるいは、社内の方向感と異なるアドバイスがあっても、一見さんのアドバイザーであれば、それなりに対処できるのが、法律顧問の意見だから無碍にできず調整が大変だとか、まあ、そういった問題がありそうである。

⑦は、一見さんの弁護士でも報酬額に納得できないことはあると思うが、長年付き合っているにもかかわらず、報酬額に納得感がないというのは、相互の信頼感が醸成されてないということなのか、加齢によってクオリティが落ちているにもかかわらず漫然と従来単価を請求してくるということなのか。

 

それにしてもひどいものである。

こんな問題があるのに、顧問契約を切れずに悶々としている企業がそこそこある、ということに、外部弁護士さんたちは自覚的なのだろうか。一度日弁連でクライアントから見た顧問弁護士というシンポジウムをやってほしいくらいである。もちろん企業側は覆面で。

そもそも、弁護士に依頼するにあたって、顧問契約が必要なのであろうか。また、弁護士の側から、顧問契約を締結していないとリーガルサービスの提供に何か支障があるのだろうか。後半は、そのことについて考えてみたい。

企業の側からみて、顧問契約を締結する理由がどこにあるか考えてみると、これも、先ほどのアクセスとクオリティの問題が根にあるのではないかと思う。

まず、顧問契約を締結していれば、相談ごとに、どの弁護士に聞こうかと探索する必要はなくなる。特に、弁護士の数が少ない地域や領域が専門的であって相談できる弁護士数が限られている場合、顧問契約を締結しておくことで、弁護士の囲い込み[2]ができる。また、定額顧問料に一定程度の相談が含まれている場合、追加費用の支払いがないということから、気軽に相談できる環境が用意されているという面もある。さらに、長期間顧問として同一企業と関係ができることで、顧問先の内部事情や事業特性に応じた、より質の高い法的サービスが提供されるという面もあるかもしれない[3]。要は、顧問料の対価は、アクセスコストの負担や、長期間コミットによるサービス水準の向上にある、ということである。

逆に言えば、顧問であってもアクセスがしにくい、あるいは、手間がかかる、顧問なのにサービス内容が乏しい、ということであれば、顧問契約を終了させてしまっても、企業としては合理的だ、ということになる。

 

弁護士の側から見れば、顧問契約は、安定的な収益をもたらすことにより、外れの相談先を拾わずに済む、顧問先に対し、日常的に顧問料を収受する代わりに、繁忙期の請求額をある程度割り引くことにより、顧問先のコスト負担感を軽減できる、優良な依頼者を顧問先に持っていることによる信用の増大、というメリットがある。

他方、顧問の地位にしがみつき、依頼者から見て満足できるクオリティ(相談頻度を含む)が提供できなくなってしまっているにもかかわらず、漫然と顧問料を収受し続けるのであれば、これは百害あって一利なしだと思う(依頼企業のみならず、このような顧問によって依頼を受ける機会を失う次の世代の弁護士にとっても)。

ただ、それでもお化けが出るのが怖く、なかなかそのような顧問との関係を切るのに躊躇し、さらに顧問に聞き難い状態が温存されているというのも実態だろうと思う。

 

(追記)

こちらの原稿について、いわゆる「ブルペン」で事前に示したところ、くまった先生から、「法務部が依頼する弁護士を選択できる情報と評価する基準をもっている必要があるのではないか。」という意見があった。その通りであって、法律顧問制度は、このような選択眼が必ずしも十分でなくても、漫然と顧問契約を継続していることによって、弁護士アクセスとコストコントロールが確保できるようになっている。もっとも、クオリティの維持は保証してくれないので、顧問契約の終了および後継プランへの移行ができなければ、クオリティがいまいちの顧問が残っていくかもしれない。そして、外部弁護士のクオリティを正当に評価でき、クオリティが確保できない場合の代替策の実行ができるというのは、企業側に相当の法務機能(組織・目利きの要員)がないとできないのである。

くまった先生からは、「顧問にはメリットもデメリットもあるが、将来的には、顧問はなくなっていくのか。顧問契約がなければ依頼を受けないというオールドタイプの事務所の存在は?」という質問も寄せられた。これについて、筆者は確定的な答えを持ち合わせていないが、企業内に資格者を含む高度な法務人材が相当数在籍していれば、従来の顧問弁護士に依頼する事項は減るものの、すべての領域に社内弁護士が対処できるとまで考えることは現実的ではない。外部弁護士に依頼すべき事項を顧問でない弁護士に継続的に依頼することができる企業も出てくる可能性はあるが、大半の企業では、機能を縮小しつつ顧問弁護士も残るのではないか。ただし、クオリティやアクセス確保できない顧問は淘汰されていくことが考えられる。また、中小企業などでは、外部弁護士への評価を内製化するリソースが不足していることから、引き続き法律顧問制度は相当程度残っていくものと思われる。

他方、オールドタイプの事務所は、少なくとも東京については、今後10年でかなり減っていくような気がするが、地方については、弁護士へのアクセスが限られていること、弁護士数が少ないことから、まだまだ数十年は続くのではないかと思っている。

 

[1] 個人情報保護法など、苦手分野に限ってアポイントが取れない、という話を聞いたことがある。

[2] もっとも、同一業界の複数企業から顧問委嘱を受ける例や、事務所が巨大化して、顧問事務所所属のほかの弁護士が取引相手方から受任するという例も散見するところである。

[3] これに加えて、中小企業の場合、信用できる弁護士を顧問としていることによる企業自身の信用度の増大という意味もあるかもしれない。よく会社概要に法律顧問を記載しているのを見かける。これに対してすでに信用が高い大企業の場合は、そのような効用はあまりないだろう。

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