「法律顧問」の多義性
この記事は、「法律顧問って、何?」についての、補足となります。
このところ、顧問弁護士について話す機会があったのですが、そもそも法律顧問制度が何かについて話す人たちの共通認識がないのではないかということが気になりました。
例えば、東証は、社外役員の独立性基準として「上場会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家」に独立役員に該当しないとしていますが、「本項に該当し得る場合としては、顧問弁護士等が考えられますが、顧問弁護士であれば必ず「多額の金銭その他の財産を得ている」者に該当するというわけではありません。[i]」としています。しかし、機関投資家の中には、顧問弁護士であれば、原則として独立性がない、としている場合[ii]もあります。この判断に対する当否[iii]は別として、顧問弁護士であれば、内部者であることが原則であるということが前提になっているということは、見て取れると思います。
それでは、顧問弁護士とは何なのか、企業内法務組織との関係から見ていくことにします。
1.誰が顧問弁護士に委嘱するか
企業内部において、誰が顧問契約締結の権限を持つか、という問題があります。これについては、大きく、法務組織が所管する場合と、法務組織以外が所管する場合があります。法務組織以外でよくあるのは、人事部門が労務系の弁護士を顧問弁護士とするとか、債権回収部門が回収担当弁護士を顧問弁護士とするとかです。金融機関の債権回収とか、保険会社の事故対応とかは法務組織ではなく、担当部門で直接顧問契約を締結していると承知しています。
日常的に顧問弁護士と接するのは誰か。多くの事案は、担当部門で発生するのですが、担当部門が直接顧問弁護士とやり取りをする場合と、法務組織を通す場合とがあります。
また、顧問料や追加報酬の支払いも、担当部門が直接支払う場合、法務組織で支払い担当部門に付け替える場合、顧問料は法務部門が支払う、あるいは負担し、追加報酬は担当部門が支払う、あるいは負担するという場合もあります。
このように、顧問契約の締結権限部門と日常的な相談などのやり取りをする部門、顧問料・報酬を負担する部門とは、必ずしも一致していないということが、むしろ通常であると言えます。
法務組織以外が外部弁護士に依頼する場合、顧問弁護士に限定する、という運用をしている例もあります。法務組織がいったん顧問弁護士を委嘱した後は、その弁護士とやり取りをするのであれば、担当部門で自由にやってくださいということですね。そうでない外部弁護士を起用するときは、法務組織の関与が必要という形で、弁護士相談の品質管理をしているということでしょうか。
2.顧問料の対価として何が含まれるか
多くの場合、法律顧問契約の対価として定額顧問料が定められます。あまり多くないですが、定額顧問料はなく、個別依頼ごとに報酬精算するという顧問契約もあります。こうなると単なる法律相談の基本契約みたいなものです。
その定額顧問料として何が含まれるか。訴訟委任とか特別な依頼を除いた法律相談、契約書レビュー一切が含まれるといった、いわば「食べ放題」的顧問料という場合があります。依頼者としてはコストコントロールしやすいのですが、弁護士としては、案件があまり多くなれば、うまく依頼者コントロールができないと疲弊してしまったり、案件を絞り込むため敢えて敷居を高くしてしまったり、ということが起こるかもしれません。
よくあるのは、弁護士実働〇〇時間までは顧問料に含まれる、というもので、さらにこの中には、実働時間が設定時間より少ない場合には精算をする場合と、精算せず取り切りとする場合とがあります。精算してしまうのなら、事実上スポット依頼と変わらないようですが、顧問の場合、一見さんよりも時給単価を下げた顧問価格にしている例もあるようです。
さらに、顧問料は法律顧問という地位の対価であり、別途相談した場合は、報酬を取るといった顧問契約もあると聞きます。
3.顧問料の水準は?
これがみんな知りたいところなのですが、上述の対価に含まれているものによっても、依頼者の規模によっても、結構千差万別、安くて月額3万円くらい、高いと100万円越えもあると思います。あ、顧問料が社外役員の報酬水準を超えているという話は聞いたことないです。
4.顧問を一緒くたにするな
ということでとりあえずの結論ですが、顧問弁護士という言葉が独り歩きするのはよくないということで、社外役員の独立性とか、第三者委員会の第三者性とかで、硬直的に顧問ということで排除するのはどうなんだ、ということになります。
日弁連の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」では、
顧問弁護士は、「利害関係を有する者」に該当する。企業等の業務を受任したことがある弁護士や社外役員については、直ちに「利害関係を有する者」に該当するものではなく、ケース・バイ・ケースで判断されることになろう。
と、いったん顧問と呼ばれたら例外なく利害関係があるとしていますが、年間数十万程度の定額顧問料で特定の部門の特定業務だけ受任していた弁護士が、顧問という名前がつくだけで利害関係があり、年間数百万以上の報酬を得ている顧問でない弁護士や、弁護士資格のある社外役員でも、利害関係がない場合があるというのは、均衡を欠くと思います。日弁連はかつて、顧問弁護士は独立した業務をしており、会社ないし経営陣に対する従属関係にないので、社外監査役を兼任することは旧商法276条に反しない[iv]としていて、そことも矛盾するように思います。
日弁連は、自分事なんだから、顧問弁護士の実態を見て判断するようになってほしいと思います。
[i] 日本取引所グループ、独立役員の確保に係る実務上の留意事項、4頁
[ii] 例としてJPモルガングループの議決権行使に関する具体的基準、SOMPOアセットマネジメントの国内株式議決権基準(監査法人出身者はパートナー経験者に限定するのに対し、顧問弁護士等は例外なし)
[iv] 2014年の記事ですが、http://tajima-law.jp/column/column_post.php?id=6856154b736b784e49
これ使って、長年の顧問弁護士を社外監査役に棚上げしてご隠退いただくという手法がかつて見られました。
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