契約審査について #萌渋スペース
契約審査・契約書審査・契約レビュー
これ話す前に、いろいろ考えていて、契約審査について語る際に、そもそも「契約審査」とは何かという点について、語る人ごとに微妙に違うことに気づきました。
愛知県弁護士会が編集した、契約審査手続マニュアルでは、「契約審査手続を、営業部門等の交渉担当者(以下「依頼部署」又は「交渉担当者」といいます。)が作成した原案あるいは取引の相手方が作成して依頼部署に届けられた原案が、法務部等の契約審査の担当者(以下「審査部門」又は「審査担当者」といいます。)に持ち込まれてから、最終的に契約が締結される(あるいは締結されない)ことが確定するまでの一連の手続」ととらえています。なお、「交渉担当者若しくは法務部等の専門部署あるいは弁護士等の専門家が一から契約条項を作成するという「契約書(案)の作成」とは異なる」としていますが、一旦ファーストドラフトを作成して社内検討、相手方との交渉となれば、ここでいう契約審査手続に組み込まれることとなるでしょう。
編集/愛知県弁護士会 研修センター運営委員会 法律研究部 契約審査チーム『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018年)7頁
ここには大きく2つの異なる概念がミックスされています。
1つは、契約書案を確定させ、締結させるまでに、交渉担当者と法務部門とを含む社内、相手方を含めた一連の過程全体または、そこから次にいう「契約書審査」を除いたもの。
もう1つは、契約書を締結する意思決定手続きの中で、権限を持った法務部門が契約書を確認する過程をいい、ここではこれを区別して「契約書審査」と呼ぶことにします。
そして、前者のうち、契約書審査を除いた契約書作成・確定・締結に係わる法務の営みを、「契約レビュー」と呼ぶことにします。
契約審査で何を見るか
契約書審査では、法務が審査通さないと契約書の確定、締結ができないのですから、審査する項目は、dtk先生が言う、コンプライアンス上の疑義なきこと、それから、適切にリスクを認識して意思決定されることの確認の2つに留まるべきだと、私も思います。
コンプライアンスというのは、刑罰規定、取締法規、強行法規に違反していないか、企業理念や社内規則に違反していないか、ということです。
適切にリスクを認識しているかという点については、もしかしたらdtk先生の考えておられる点と異なることを考えているのかもしれませんが、どういうところにリスクがあって、それはわかったうえで判断をしているか、というものです。あるいは、事業担当がやりたいことが、契約書にきちんと反映されているか、と言ってもよいかもしれません。
よく法務相談をしていると、事業判断します、ということを事業担当者から言われることがあるのですが、そのリスクは、担当者でとれるのか、経営者が判断しなければならないことなのかということはチェックします。また、リスクを取る、とはどういうことなのかも、リスク顕在化したときの対応策も含めて、十分検討しておき、将来発生時に参照できるようにしておくということまで、契約書審査手続の一環だと思っています。なので、「●●というリスクがあることを稟議書に明記しておいて」という指摘をすることは結構あります。
これに対して、契約レビューの過程で法務が何を見るのかは、企業における法務部門の役割や事業部門のリテラシー、どういう種類の契約のようなのかなどによって、千差万別です。
日本語としてどうなのか、表記の揺れがないのかに始まって、そもそもこんな取引するのかとか、高いとか安いとか、細かい技術水準だとか、法務が見る場合もあるし、事業部や営業部が見る場合もあるし、知財だとか技術部といった専門部が見る場合もあるでしょう。
CLMについて
契約書締結後の条件管理という意味でのContract Lifecycle Managementについても、私は契約レビューと同じだと思っていて、どこの部署がやるべきかは、企業ごとのスタンスだと思っています。
なぜ「契約書審査」という狭い領域に閉じこもるのか
契約レビューにしても、CLMにしても、法務が行うかどうかは必須じゃないんだ、と言うと、それは法務のやる気のなさとか、法務組織が弱いんじゃないか、という疑問がわいてくるんじゃないかと思いますが、私はそれは逆じゃないかと思っています。
契約書審査は、法務でしかできない。そこはちゃんとやろう。さらに、契約書審査で意見を言うことは、経営者や事業担当者では覆せない、法務が負けたら企業が終わり、ということになります。そこはちゃんと確保しようよ、ということです。
契約レビューやCLMという領域では、法務の意見も事業の意見も、経営の意見も、いわば平場で勝負、ということになりますから、結局強い者が勝つ、ということです。強い、というのは、声が大きいということではなくて、企業価値にどちらが資するかということです。
強くないのに、法務が巻き取るとどういうことが起こるか。
ある会社で、大不祥事をきっかけに、外部に出す書面はすべて法務が起案しないといけない、という決まりを作ったそうです。そうすると、有象無象の文書を起案してくれという仕事が来て、法務の人たちのモチベーションがひどく落ちたという話を聞いたことがあります。きっとこういう会社ですと、自分事でない文書を書かされる法務と、文書になったとたん自分事じゃなくなって、仕事を適当に済ませる営業とが出てきて、企業価値という観点から見てどうなのか、という事態が起こっているんじゃないかと想像しました。
結局、最も得意とする分野において、それぞれの担当部署が自分事として仕事をしていく、その組み合わせを、経営や管理する立場の人が模索していく、というのが自分の考える企業価値最大化のための最善策だと思っています。
ですから、法務の立場でいうと、「契約書審査」の役割をまずはきちっとこなす。そのうえで、契約レビューの過程で、法務が得意とする分野について責任を持つ、この、責任を持つというのは、法務が言ったことについて、事業担当とか経営も尊重をしてくれるとか、そこで失敗したことは、法務として受け止める、といったような意味です。そうすることが、法務組織としても、最も力を発揮できるのだと思います。身の丈を超えたことをやることが法務力強化につながるとは思えないです。
身の丈を超えた夢を語っても、結局独りよがりになってしまわないかと思います。
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