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03/05/2024

契約書審査について・補足

久しぶりの #萌渋スペースで契約書審査について触れたところ、望外の反響があり、これをきっかけに、今まで考えていたことをいくつか補足しようとおもい、例のごとく擬古文でつぶやきましたが、何が書いてあるのかさっぱりわからないと思いますので、こちらで展開しておこうかと思います。

1.全件審査主義/部分審査主義

全件審査か部分審査か

これはこちらの方で「法務部門が契約書全件を審査する全件審査方式と、基準に基づいて法務部門が一定の範囲の契約書を審査する一部審査方式とがあり、『多くの企業では、全件審査方式ではなく一部審査方式を選択しています』[i]としています」と紹介しました。

 

2.部分審査主義の場合の審査対象契約の基準

部分審査の場合審査対象を積極的に定義するや審査除外類型を規定するか○積極的定義の基準如何○決裁基準に基き決裁者が社長担当役員等の場合○特定の取締法規関連契約○過去事例から危険度高き契約等が想定○以上典型的審査類型なれど境界免れず定性的に重要且危険高き契約と規定する事有るべし○此重要且危険性高きと判断するのは被審査者か審査者たる法務か○控除説の場合控除類型として自社雛形○法務部門起案○約款利用規約等変更不可類型○自社雛形にても売主なれど買主想定類型用ゐる弊免れず○自社雛形法務起案にても被審査者が密かに修文する可能性有り○変更不可類型に於て締結に伴ふ危険性検討要す○此等問題点を如何に整理するや○法務を右筆と為し須く対外文書を起案折衝すべしと為せば事業部門をして契約に対し無責任ならしむる弊有るべし

部分審査主義の場合、どの契約を審査対象とするかという問題が発生します。

上のつぶやきにあるとおり、審査対象の契約類型を規定する方式と、審査対象外の契約類型を規定する方式との2方法があります。

対照類型を規定する場合としては、

  • 決裁レベルが上位者の意思決定にかかる契約書
  • コンプライアンス違反のリスクが高く、かつその内容確認に一定の法的リテラシーを要する契約類型
  • その企業の過去の失敗例(コンプライアンス違反以外のリスク)から、より慎重に見るべき契約類型

などが審査対象となると思います。

ほとんどの企業では、決裁基準を策定していて、取締役会決議が必要な類型から、社長、担当役員、部長、課長などの決裁権者を、意思決定類型や金額等の重要性に応じて定めているものと思います。その、上位の決裁にかかる契約締結時には、その企業において重要な意思決定だという価値判断があるでしょうから、その過程で、法務的チェックをしているという証跡を整えていくことが、内部統制の観点から求められていると思います。

コンプライアンス違反の可能性が高く、かつその内容確認に一定の法的リテラシーを要する契約類型については、コンプライアンス違反かどうかが、法務でなくてもわかるものは敢えて法務が審査しなくてもよいという判断がありえます[ii]。例えば、暴排条項の有無は、暴排条項として最低限必要な項目をあらかじめチェックリストなどで提示しておけば、敢えて契約書審査対象とせず、担当部署でチェックするということもできると思います。

その企業の過去の失敗例の類型は、同じ失敗を何度も繰り返すのは、内部統制体制やリスクマネジメント体制の不備という評価を受けてしまうので、契約書審査することは自然なんだろうと思います。

さらに、明確に上記の基準に当てはまらなくても、審査したほうがいいというキャッチオール的な類型が入るのではないかと思います。この場合、審査対象とするか否かの判断権は、審査する法務部門にあるのか、審査申請する側にあるのか、といった問題があります。申請側ですと、@dtk先生がご指摘されるように、「『不安なら見るよ』等と企業内法務が言ってしまうと、結局全部について審査依頼来てしまう可能性が排除しきれないことになろう」といった問題も出てきます。逆に、法務部門が決める、ということになると、申請側が申請しないけど法務部門が審査必要と考える類型をどうするかとか、逆に、法務部門が業務繁多を理由に審査を拒めるのかという問題も出てきます。

審査対象外の契約類型を規定する方式として、「契約リスクが非常に低かったり、また修正が不可能な契約」として以下のような類型[iii]が提唱されています。

  • 法務部門が作成した契約モデルどおりに締結する契約書
  • 過去に締結した契約書と同じ内容で更新する契約書
  • 基本契約書に基づく個別契約書
  • 銀行取引約款
  • 保険約款

また、一定の金額以下の契約については、費用対効果の観点から、契約不要とすることが望ましいとの指摘もあります。

しかし、法務部門が作成した契約モデル(会社雛形など)どおりかどうか、実質的な変更がされているかどうかは、審査対象外であれば確認されずに用いられることがあります[iv]。過去に締結した契約としても、本件で使うのが適切なのか。個別契約でも思いもよらないリスクとなる約束をしていないか。約款など修正不可能な契約であっても、締結に伴うリスクを提示したうえで、締結の意思決定を行うべきではないのか。こうした懸念、あるいはリスクをどのように捉え、企業活動の効率性と両立していくかが課題となります。

 

3.審査をどう受け付けるか

審査受付○如何なる様式にて受付るや○特定様式法務部門として整理容易なれど被審査部門の一定の負担有之○近時人工知能を用ゐ様式自由化の試み有り

契約書審査であれば、ワークフローシステムを構築したり、稟議システムの一部に組み込むといった例[v]が多いのではないかと思います。この場合、審査申請側としては、申請フォームに入力する必要があります。

半面、契約書審査と契約レビューが未分化であったり、契約書審査でも審査完了のフラグさえあれば、契約締結の意思決定手続きに入れるといった場合には、様式自由ということもあるかもしれませんが、今後は審査を行う法務部門が何をもって審査の受付なのかといった問題にあたることになります。

審査受付時間を定めて、時間外の受付は原則として行わないとすれば、法務部門の負荷は減りますが、どうしても早く審査してもらって、稟議・決裁手続きに進みたい申請側としてはやきもきするかもしれません。逆に、金曜日の就業間際に申請が来て、月曜日朝一に稟議回すのでよろしく、と言われたときの法務部門の負荷も考えないといけないことになります。

 

4.審査担当者

審査担当者を誰にするや○法務担当複数の場合被審査者の自由選択とするや割当制とするや○審査前相談有りたる場合相談者が審査するや

審査申請を受け付けた後、最初に法務部門内のどの担当者が契約書を見るか、という論点となります。申請者がこの人に見てもらいたい、という指名制を取る場合、まったくランダムに割り当てられる場合のいずれになるのか。あるいは、事前相談をしていた場合に相談していた法務担当者が引き続き契約書審査をするのか、敢えて違う人の目でチェックするのかといったことも、決めておく必要があります。指名制だと、法務担当者によって人気者とそうでない者とが出てくることをどう平準化するかといった問題があります。ランダムだとか、事前相談とは違う人が審査することになると、審査で初見で契約を見るため、審査期間が長くなるかもしれないといった問題があります。

 

5.単独審査/複数審査

法務部内審査過程に於て担当者一人とするや複数の確認を要するや○単独審査なれば審査期間短し然れど精粗ばらつくべし

法務部門内で、審査を担当するのが、担当者一人なのか、複数の担当者あるいは管理者のチェックを行うのか、といった論点です。単独であれば一般的には後述する審査期間が短くなる傾向はあると思いますが、前述の誰を審査者とするかで指名制を取って、人気者の担当者だと、オーバーフローして審査期間が長くなるだけではなくて、審査精度が低くなる可能性があります。また、担当者ごとに審査の品質が異なるのをどう防ぐかといった問題もあります。複数の目で見れば、品質は安定する一方、より慎重に見るということになりますので、どうしても審査期間が長くなるといった傾向があります。

 

6.審査期間

審査期間として標準期間を定めるや○被審査者の早く審査完了すべしとの圧力を如何に抑へるか

審査期間としてどれくらいの期間を考えるかといったことは、結構企業ごとにばらつきがあると思います。ある会社では事前相談がある事を前提に即日審査がほとんどであるという話を聞きます。反面、ある会社では1週間以上の期間を開ける場合もあります。事業のスピードに対応する一方、審査の品質が早かろう悪かろうではまずいので、そのバランスをどうとるかが問題となります。また、標準審査期間をあらかじめ定めておくのかどうかという課題もあります。

申請側からの早く審査完了してくれというプレッシャーをどうかわしていくのかといったことも、法務部門の課題となります。

 

7.審査基準

審査基準

審査で何を見るのか、どのような基準で見ていくのかといった点は、前回のブログで触れたとおりです。

 

8.審査結果の形式

審査結果の形式無意見なれば格別○要修正なれば不可なるや差戻なるや修正施して示すや○修正に及ばざるも稟議書明記すべし等の意見付記を如何に記録するや

最後に、審査結果をどういう形式で出力するかといった論点があります。

一番シンプルなのが、コメント無し、ということになります。

逆に、審査不可、よって、契約締結まかりならん、という結果もあります。これをどの程度出すのか、といったことは法務部門の企業全体における地位によりますが、たいていの場合は、ここに至る前に何らかの修正がなされて、審査不可になる例はあまり多くないのではないかと思います。

この中間に、修正点を指摘して、指摘どおり修正すれば締結可という場合があります。この場合、指摘にとどめて、修正後の契約書案を改めて審査にかけるのか、申請されている契約書案を修正して締結可能な契約書案として示して、新たな契約書審査手続きはしないという方式にするのかを考える必要があります。

また、契約文面は修正しない(あるいは、力関係などから修正できない)が、これこれのリスクがあるので、意思決定にあたって留意しておくことという指摘にとどめる場合もあります。このような指摘を意思決定手続きにあたって記録化しておくことで、締結後にリスクが顕在化したときに、事前にきちんと検討していたことの証跡となり、内部統制手続きが機能していたということになります。

 

以上、思いつくまま論点だけを提示しました。

 

[i] (株)LegalOn Technologies、奥村友宏(編)、THE CONTRACT、商事法務、2023年、25

[ii] 契約ではない類型ですが、景表法違反の観点から広告物をチェックするというのは、広報担当者が景表法のことを理解していないのであれば、法務が行うべきという整理もあることだと思います。

[iii] 前掲注i25-26

[iv] ある鍵アカさんが、「魔改造」と呼んでいました。

[v] 萌渋スペースの反応で、契約書審査ワークフローを通った後、改めて契約締結の決裁でも法務が二重にチェックするという会社があると聞きました。お疲れ様です。

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