法務を法務から解放して考えてみる #legalAC
今年の法務系アドベントカレンダーも今日で終わりとなった。この1年ほど考えてきた、企業法務観をまとめて、クリスマスの投稿としたい。(後日追記予定)
経理や(従業員を雇用する場合)人事・労務に関する部門・担当者は、企業があれば存在するが、法務は必ずしもそうでない、と言われることがある。法務は不要不急の機関であるということなのだろう。
しかし、およそ企業が活動するうえで、たとえば、取引を行うということは契約を締結するということであり、法令に定める何らかの規制から全く無縁で事業活動を行うということはまずないし、第一、会社という仕組み自体が法律に基づく制度である。そのような意味で、法務をとらえるとすれば、経理や人事と同じくらい、法務も企業活動に汎用的な存在であるはずである。
これに対して、世間一般で言われている法務は、もう少し狭い意味で使われている。つまり、法務機関[i](法務関連部門が行う場合を含む)が行う法務、あるいは、法律家[ii]が企業内で行っている業務を捉えて法務と呼んでいる。
ここでは、前者を<法務>、後者を「法務」ということにする。
法務機関における法務=「法務」
法務機関における法律家から見た「法務」論は、たくさんある。法務期間内における効率的な仕組みづくりは、「リーガルオペレーションズ」として論じられている。「リーガルオペレーションズとは、法務部門が自社内のクライアント(経営陣や営業部門などほかの部門)に対する機能提供をより効率的・効果的に行うことができるようにするための仕組みである[iii]」。(日本版リーガルオペレーションズ研究会、戦略のための戦術 CORE8 日本の法務部門の場合、2024年、商事法務、2頁)
また、法務が経営にインフルエンスを与えるとか、経営陣や各部門に法的なものの見方・考え方・リテラシーを浸透させるとかいう提言が、法務機関の側からなされることは多い。これらは、法務機関からの「法務」供給側の論理である限り、経営陣や各部門に響くことは少ない。需要者からの視点が必要だと思う。
法務機関以外の企業内における法務
ジュリスト1600号の座談会にて、水野先生から「経産省の報告書では法務部門だけでない、経営層や他組織にも存在する法務全般を指して敢えて『法務機能』という言葉を意識的に設定し」たとの紹介の後、「法務の範囲・捉え方をどのように考えるのが適切」か、という問いかけをしたのに対し、アメリカのローファームでの勤務後総合商社の法務部門に長く所属した茅野氏は、所属する企業の法務部の沿革に触れ、もともと法務部は、営業部署が求めていた機能に応えて存在したということを述べて「法務の観点から物事を見るということも大切なのですが、その時々で会社が何を必要としていたのか、営業が何を求めていたのか、その中で広義の『法律』に関連する部分が法務の機能であった」と指摘している。そして、法務機能は、法務部門といった営業部門の外にだけあるのではなく、「営業の中においても法務機能は存在する」と述べている。
法務機関からの視点ではなく、経営者や営業などの固有の法務機能を、MNTSQの板谷氏は、「非法務組織の法務機能」と言っている。そして、リーガルテックが、非法務組織に対して日常的に大量に発生する比較的「軽い」契約レビューというサービスを直接提供することで、法務機関が本来行うべきより知的な作業に集中できることを提言している。
法務部門における法律家の業務の大宗が、NDAや業務委託契約書の審査という会社は相当数存在する。また、複雑なリーガルサービスの基礎・入門として、これらの契約審査を位置付けている法務部門もあろう。こういう中で、外部のベンダーがこれらの業務を代替していくことが今後企業における<法務>のあり方にどのような影響を与えていくのであろうか。簡単な契約や法務相談は、AIにお願いして、それではわからない複雑な業務は外部弁護士の助言を仰ぐという形になって、法務部門の存在意義がなくなるということも、あるかもしれない。
企業外企業法務
企業法務における企業外の法務機能の担い手としては、伝統的には外部弁護士があり、最近では、リーガルテックサービスがある。
従来型の業務に加え、近年、「法務受託」が、外部弁護士による法務機関の行う業務の一部の代替として行われるようになっている。興味深いのが、アメリカにおいて社内弁護士の位置づけの向上が行われた大きな動機が、外部弁護士費用の高額・非効率の改善であり(ベン・W・ハイネマンJr.、『企業法務革命』、2018年、商事法務、11頁)、米国におけるLegal Operationsの動機の大きな一つも、外部弁護士報酬の効率化である(鈴木卓、門永真紀(編著)、Legal Operationsの実践、2024年、商事法務、4-5頁)ということである。これに対して、日本では、法務組織の効率化のため、外部弁護士への委託が言われている。
リーガルテックサービスのうち、法務機関内部のみで用いられるリサーチツール、ナレッジマネジメントシステムなどは、「法務」の機能強化の文脈で理解できるが、前述の、非法務組織の法務機能を充実させるシステムとか、法務機関と社内外とのコミュニケーションツールを兼ねたシステムは、<法務>のあり方を変革させる可能性を持っているものと思われる。
[i] 法務“機関”とは、法務組織に加え、法務組織の上にあるCLO、GCなどの法務関係の役職を含めた概念。
[ii] 我が国の実情を踏まえて、「法律家」は、法曹資格の有無に関係なく、法律についての一定程度の教育・訓練(OJTを含む)を経た法律の専門家という趣旨で用いている。これに対して、「法務パーソン」は、基本的には法務組織に所属し、法務業務を行っている人であり、まだ専門家とは言えない人も含まれている(「今日から法務パーソン」という書籍があるように、所属すれば即法務パーソンになる)。法務組織外に法務パーソンがいる場合でも、法務組織が「本籍」であり、いつかは法務組織に戻ることが前提となっている。
[iii] この後に、「より広義には、企業が法務能力を向上させるための一連のプロセス、活動およびリソースを意味する」という記述が続くが、現時点において、広義のリーガルオペレーションズの実践について、法務機関における法律家から具体的提言はあまり見ない。
« 京野哲也(編著)、ronnar、dtk(著)、Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編リーガルサーチ #萌渋スペース #LegalAC | Main
« 京野哲也(編著)、ronnar、dtk(著)、Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編リーガルサーチ #萌渋スペース #LegalAC | Main
Comments