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12/01/2024

京野哲也(編著)、ronnar、dtk(著)、Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編リーガルサーチ #萌渋スペース #LegalAC

前著に引き続き、dtk先生からご恵投を出版早々いただきました。感想を書かねばと思いながら遅くなり師走のdtk先生の #LegalAC に何とか追いつく形となりました。

なお、こちらの投稿のもととなった文章をnoteにて公開しておりますので、お時間がある方はご覧になっていただければと思います。

 

  • 前著199問では、項目ごとにトーンが違って、著者間での調整がうまくいっていなかったように思えたが、本書は思想が一貫していたように見えた。そのあたり、今回の執筆状況はどうだったのか?
  • リーガルリサーチの本、というと、マニュアルとかハウツー本ではないかと題名だけ見たときは思った。実際、過去のアカデミックの領域におけるリーガルリサーチの本は、どこで資料を見つけるかとか、資料をどう使うかというものだった。ところが、この本を読むと、確かにそういうハウツーの部分も一部あるにはあるが、大半は仕事の仕方とか心構えとかが中心で、さすがだな、と。このあたりは、この本が出てすぐに出てきたちくわさんとかおもて明さんの感想にも似たようなことが書いてあった。あと、何となく同人誌的な趣もある。ronnarとかdtkというネット上のバンドルネームを著者名にしているというところや、サイ太さんの出した「(裁)判例上出てくる最大の請求額」の反論を検索してみたとか、これ、サラリーマンが業務中にやってはいけないですよね。あと、小ネタとか、経営アニメ法友会とか。前シリーズにも書いてあった、ブログからBLJの書評を連載して、Q&A若手弁護士からの質問シリーズの共著者に参加してというわらしべ長者のお話なんかは、これからの法務パーソンもこの荒廃したツイッターの世界で同じようにできるのかな、と思う。
  • リーガルリサーチの過程として、この本で紹介しているのは、第1に適切な問いを立てる、そして第2にリサーチ本体、第3に、リサーチ結果を受けて案件を進める、という3段階。
  • 問いを立てる、というのが、いかにも実務でいい。アカデミックの場合は、学生ならある程度教授から問いを与えられるし、逆に学者になれば、問題意識があることは当然の前提なので、そこは語られない。それに対して、実務では、どういう問いを立てると適切なのか、ということが入り口としてとても重要。
  • 適切な問いをどうやって立てるか、という点については、前提事実の正確な理解、法律知識、リスク感覚が大事と言っている。ちょっと気になったのは、リスク感覚と前提事実・法律知識との関係で、リスク感覚は事実や知識の補完という記述と、リスク感覚があれば、事実や知識が不足していても、適切な問いを立てられるという記述とがあり、読んでいてどっちなのか混乱した。事実や知識が全くないというのは困るのだろうから、では最低限どの程度必要なのか、という点をもう少し触れてほしかった。
  • リサーチの本体については、条文のあたりをつけ、条文を参照し、書籍、裁判例、論文という順に進めることを本書では勧めている。
  • あたりをつける、というのもいい。リサーチをする人の暗黙知としてやっていたことを、きちんと言語化しているのは、この本の独自性。ここで、何のあたりをつけるのかと言えば、一義的には条文である。なぜならば、条文がすべての起点であるのがリーガルリサーチの基本ということだから。ただ、実際には条文でない概念が重要であるということもある。例えば、交通事故のときに損害賠償としてどれくらいの責任が認められるか、という問いであれば、民法709条を見ても答えは出てこない。実際にこの本でも、条文でないものにあたりをつけるように見える記述もあるのではないかと思った。
  • 他方、あたりをつけるのは答えのあたりをつけるのではない、いいものが見つかってもいきなり飛びつくな、ということも行っており、それはそのとおりだと思う。
  • 条文を起点とするというこの本の立場は、よくわかるが、そうであるのであれば、六法の使い方についてはもう少し詳しく触れて欲しかったところ。特に、紙の六法の使い方。
  • 条文の次は書籍。書籍もコンメンタールからというのが条文を出発点としている点で論理一貫している。ただ、自分の考えを言うと、コンメンタールも玉石混交で、いかにも学者の抹香臭い記載が残っているものもあるので、取捨選択については、もう少し言及が欲しかった。例えば、立案担当者が執筆しているのであれば、立法意思の推察により参考となるとか、いつ時点の記述か注意するとか、執筆者を吟味する必要があるといったところ。
  • コンメンタールに続き定評ある基本書を挙げている。もっとも、実際に紹介されているのが、民商法という実体法についてで、かつ単著の書籍に限られているので、どういう書籍が定評があると言えるのかは、基準も示してもらえればありがたかった。論点が網羅的、正確に判例・有権解釈・通説・実務が記述され、これらが、自説や少数説ときちんと区別されているということだと思う。
  • その次が実務書だが、玉石混交。この玉石混交というのは、その後も判例評釈、論文、法実務情報でも出てくるが、実務での課題は、どうやって、玉石混交の中から玉を見つけるか、ということ。コラムとかで、実際に絞り込む例が書かれているが、シュッとしてバーンみたいな名人芸見ているような感じ。
  • コンメンタール同様、立案担当者や、取締法規における当局関係者が執筆した書籍は、実務上重要なので、強調しておいた方がいいと思った。
  • あと、「赤い本」とかの言及があればいいのでは。
  • 書籍で調べた後に裁判例を見ることになる。この本だと「(裁)判例」という言葉を使っているが、どうしてこういう言葉なのかという説明が、最初に「(裁)判例」という言葉が出てきてからずいぶん後に出てくるので、初心者は混乱するのではないかと思った。最高裁の判例と、下級審でも参考となる判決例の取捨選択について、説明はあるが、特に判例のところの説明はあっさりし過ぎていると思った。ほかの本の紹介も含めて、もう少し丁寧に書かないとわかりにくいのではないか。
  • 判決の検索も、シュッとしてバーンという感じ。膨大な関連判決が出てきて取捨選択に途方に暮れる、というのが、あるある話だと思う。
  • 論文検索では、芋づる式検索を推奨。古典的なアカデミックにおけるリサーチでは書誌、つまりインデックスを見て論文を網羅することが推奨されているのだが、書誌の活用についてはあまり触れていないのが意外だった。
  • パブコメの活用に触れているが、パブコメは政省令以下を対象としているので、肝心の法律は対象外である点については、留意が必要という点についても触れておいた方がいい。
  • 人に聞くとかは、自分で行けるところまで調べて、仮説をもって聞くというのが重要であるところに異論はないが、結構消極的という印象を受けた。人をつかう、というか、一緒になって調べるというのも、もっと前面にだせばと思う。
  • 行政へのヒアリングについては、逆ばねリスクがあるという警告がある。ロビイングに通じるものがあるが、どういうルートで、どう行政官に心理的安全性を持ってもらって、より踏み込んだ回答を得られるようにするかは、工夫の余地があり、実務としてはやりがいがあるところだと思う。
  • リサーチの後はレポートを作成する。それだけだと汎用性がないので、ノウハウを別途まとめることを勧めている。ナレッジマネジメントのところの記載は、今まで担当者ベースで書いてあるトーンとは異なり、法律事務所や法務部門の目線で、ちょっと違和感が残った。

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